Story4

方南二丁目福祉施設•荒川区特別養護老人ホーム おたけの郷

社会を変える介護事業者とのパートナーシップ 類設計室 営業統括部 雪竹 恭一

福祉の世界を変える企業との出会いと協働

福祉の世界に風穴を開ける大起エンゼルヘルプ(以下、大起と表記)の和田氏と類設計室の出会いは、今から10年以上前に遡ります。これからの福祉施設を模索するため、当時前例の少なかったユニットケア型のグループホームを調査すべく、和田氏が施設長を務める施設を訪問したのがきっかけでした。

営業の雪竹は、当時の出会いを今も鮮明に記憶しています。「開口一番、『設計者は今まで何を創ってきたんだ!』と喝をもらいました。当時の福祉施設は、管理優先で利用者が人間らしい生活ができるとはいえない施設が多かったからです。そこを和田さんは怒っていました。」

雪竹自身も「福祉」の理念と現場との乖離に疑問を持ち、人の活力はどのように生まれるのか、高齢者の社会的役割とはなにか、議論をぶつけ、そして意気投合しました。
以降、複数のプロポーザルにパートナーとして参加し、現在までに4件のプロジェクトを実現してきました。
施設のコンセプトを考えるとき、毎回根源的な問いからスタートさせます。「普通の暮らしとはなにか?」「人が本来もっている力を引き出す支援とはなにか?」プロポーザル提出の締め切り直前まで議論が重ねられ、目指すべき介護の方向性を模索し続けてきました。

「活きて、生きる姿」を取り戻す

2006年に竣工した方南二丁目福祉施設は、「支え合いのまち」をコンセプトに、施設的なスケールを排し、複数の家々が寄り添い、互いに支え合い普通に暮らしてゆけることを目指しました。

通常、福祉施設は車椅子やストレッチャーの利用を想定するため、必然的にスペースは広がり、さまざまなバリアフリー設備(手すり等)を備えるのが一般的です。しかし、このようなつくりは、それまで住んでいた家とはかけ離れた空間になることがあります。また、体は元気な認知症の利用者にとってはバリアフリーに依存し、本来人が持つ「生きる力」を失ってしまう欠点を孕んでいます。

ここでは、廊下や天井高などは可能な限り住宅スケールで設計し、玄関はあえて上がり框をつくることで、利用者同士が共同生活を通じ助け合い、自ら考え、身体を使っていくことを目指しました。
 一方、利用者の経年変化を想定し、車椅子のアプローチを別に設け、浴室や便所など必要な部位は、運営者と使い勝手を議論の上ディテールを決定しています。

2013年に竣工した荒川区特別養護老人ホーム おたけの郷では、かつて地域にあったお茶屋をヒントに、居住者だけでなく近隣住民も利用可能な「おたけ茶屋」を計画し、「まち」と「ひと」のつながりが意識される空間を創出しました。

建物から学ぶ、現場の声から学ぶ

類設計室では、竣工前の現場見学会は設計者の完成披露会ではなく、組織を前進させるための「学びの場」と位置づけています。若手設計者は自ら設計した建物を体験し、現場の生の声を聞くことで、想定通り実現できた箇所、改善箇所を確かめ、次の仕事に活かしていきます。

荒川区特別養護老人ホーム おたけの郷の見学会では、各専門房の若手が成功点や改善点を抽出し、企画・設計・施工の各フェーズごとの留意点をレポートに取りまとめました。その要点は「利用者に対する細やかな配慮に加え、職員が介護を行う上で余計な手間をとらせない空間となっているか、という視点で設計しました。なぜなら、職員に余力が生まれれば、別の新しいサービスを行え、施設をもっと良くできるからです。ですが、見学会を通じて、さらなる改善点が見えてきました」というものでした。このレポートは社内ネットに投稿され、即座に全社員に共有されました。もちろん、次のプロジェクトでは、このレポートを活かした設計体制を組むつもりです。

類グループ×大起エンゼルヘルプ

クライアントとのパートナーシップは、設計の枠に留まりません。2012年、類グループ社会事業部と大起の共同企画「エンゼルカレッジ」の活動をスタートさせました。エンゼルカレッジとは、福祉業界の将来を担う人材育成のための大起社員による勉強会であり、類グループはファシリテーターとして参加しました。大起の若手・中堅社員に混じって、類設計室からも多数の若手設計者が参加し、企業の枠を超えて、切磋琢磨しながら研鑽を積んできました。

「大起さんとここまで深い関係を築けたのは、クライアントと設計者という関係を超えて、あるべき社会や企業の可能性をともに模索してきたことが大きい。類が培ってきた認識が、企業間のパートナーシップを深化させたともいえます」(雪竹)。これからも認識を紐帯として、設計そして企業という枠を超え、社会の変革者として協働していきます。

Voice 〜施設運営者の声〜

運営者である大起エンゼルヘルプ 入居・通所事業部 部長代理 福井さん

運営者:大起エンゼルヘルプ
入居・通所事業部 部長代理
福井さん

この建築の一番の良さは景観に配慮し、地域に完全に溶け込ん でいることです。周りに溶け込みすぎて、施設に気が付かずに通 り過ぎる方もいるほどです。敷地内の通路は自由に通れるので、 地域の方々が普通に行き来しています。近くの保育園のお散歩 ルートにもなっており、「みんなの広場」はその時の休憩所にもなっ ています。各建物も施設っぽさが「ゼロ」で、本当に普通の家。 落ち着くつくりになっている。特に、木造のグループホーム棟は、 狭さ=コンパクトさがいい。廊下が狭い分、手摺ではなく壁伝いで 歩ける。周辺地域との関係では、立地の良さも相まって、商店会、 町会、保育園との交流をはじめ、支え合う関係ができています。日々 の商店街への買い出し、地域活動にも参加を続け、施設運営で も地域に溶け込めるよう取り組んでいます。日数を重ねるごとに、 地域と馴染んでいっています。

  • 類設計室 営業統括部 雪竹 恭一 1985年:入社、第8設計室(調査部門)に配属 1995年:営業統括部にプロデューサーとして配属、現在に至る