Story9

加古川総合庁舎

“本当の環境共生”を先導する環境型モデル庁舎 ディレクター 平野令

本当の環境共生建築には自然を支配する技術は必要ない。

‘05年当時、温室効果ガス(CO2)の排出削減が叫ばれる中、兵庫県の加古川総合庁舎に携わる機会を頂きました。「地球の人々にとって長く、親しみやすい長寿命建築」という与件の中で、もっとも頭を悩ませたのが環境政策を先導する“環境型モデル庁舎”の考え方でした。

元来、日本の伝統家屋は、自然に融和した「環境共生型」の建築様式として、現在も誇るべきものです。庇・縁側・簾・欄間・坪庭など、光と風の流れを巧みに利用したその技は、日本の気候風土に根差し、自然に同化して暮らす先人の生き方そのものと言えます。
 「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と、『徒然草』で吉田兼好が書いたように、日本人は夏の強い湿気を克服するため、通風の活用を徹底して追求し、風の通り道こそが、心地よい暮らしの生命線なのです。
 しかし現代において、採光から換気に至るまで、多くを機械に頼る生活を作り上げる過程で、われわれは自然を遠ざけ、自然とともにあった本来の姿も、そして本当の“快適さ”すらも見失なってきました。

環境共生への挑戦-すべては自然への同化から

どうすれば自然の風や太陽の光を生活の中に招き入れ、その恵みを享受できるのか。われわれは、敷地の微気象を調査し、風や光に徹底して同化し( なりきって)考えました。

そして、古来の日本家屋が持っていた光と風の摂理を見つめ直し、それらを先端的な環境技術に解き直すことで、大規模高層建築に有効な、環境デザインを実現させることができたと思っています。

自然とともに暮らすこと − そよぐ風、光の恵み、それら自然に対する感謝と畏敬の念がうまれたときはじめて、環境共生建築は実現したことになると考えました。
 庁舎建設にあたって目標とした「生涯温室効果ガス排出量30%削減」は、“豊かな心の再生”の副産物と言っても過言ではありません。

風と光を快適に運び込む“エコロジカル・タワー”

本建築における環境デザインの最大の特徴は、日射負荷と熱貫流を遮り、自然光と自然通風を取り入れられる、南北立面のダブルスキン“エコ・ファサード”にあります。

ダブルスキンは、外側は庇を設けた耐風ガラス、内側は複層ガラスで構成されています。そして、内側のガラスを引き違い窓にすることで、執務者が個別に通風を調整できるようにしています。ダブルスキンの間隔は700㎜とし、メンテナンススペースとした上で、日射負荷低減のための外ブラインドを設置しました。

ここで自然通風を最大限生かせる“風の道”について触れておきます。

まず、各階ごと、ダブルスキンの外側ガラス上下には換気ダンパーを設置しています。風は下方ダンパーから室内に流れ込み、執務室と廊下の間仕切壁上部に設けた換気欄間窓を通り抜けて、建物中央部の東西2箇所にある“エコ・ヴォイド”へと運ばれていきます。“エコ・ヴォイド”の頭頂部は、屋上からさらに13.5m立ち上げられた高さにあり、この頭頂部には換気モニター窓が設けられています。煙突効果によって“エコ・ヴォイド”に流れ込んできた風は、再び外へと排出されるようになるのです。

土・緑・水・風・光のエネルギーを活用

“ダブルスキン”と“エコ・ヴォイド”の建築環境デザインに加えて、南側の窓には太陽電池パネルを組み込みました。さらに、エントランスの大庇、屋上展望歩廊の屋根にもシースルー型の太陽電池を設置し、太陽光発電システムを建築デザインに融合させています。

また、地熱を空調に活用するクール・ヒートチューブ、便所洗浄水としての井戸水活用、風力発電、高効率照明自動調光システム、氷蓄熱システム、コージェネレーションシステムなどのアクティブ手法も導入し、土・緑・水・風・光のエネルギーを最大限活用するシステムとして計画しています。

100年建築によって環境負荷を30%削減

建物の一生の中では、建設時と解体廃棄時に、地球環境への負荷がピークとなります。つまり、建物の寿命を延ばすことは、地球環境負荷を減らす最も有効な手段です。そこで、本施設では長寿命建築としての“100年建築”を目指しました。
 建築の寿命を決定づける要因として、「物理的要因」と「社会的要因」があります。物理的要因としては、建築構造躯体の劣化や付属物の劣化、さらには阪神・淡路大震災以降クローズアップされている「耐震性」等が挙げられます。また、社会的要因では影響を与える要素としては、機能性の価値転換があります。この機能性とは、ワークスタイルの急激な変化に伴う、建築空間に対する要求の多様化・高度化などです。

100年と言う長寿命化を実現するために、物理的要因である建物躯体の耐震性と耐久性を高めることと、社会的要因である建物の可変的な機能性(フレキシビリティー)を確保する必要がありました。

そこで、建物基礎に免震構造を導入した全体免震、上部躯体をオールPC架構としました。また、執務空間を自由に変更・移動できるよう、PC架構の大スパン化で約40m×10mの無柱空間を実現するとともに、さまざまなデスクレイアウトにも対応できるシステム天井を採用し、フレキシビリティーを確保した空間を実現しました。100年という長寿命建築に最先端の環境配慮技術を有効に組み合わせることで、従来型の建築物に比べ環境負荷(LCCO2)を30%削減することを目標として、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)の最高評価S クラスを実現しました。

先人の知恵と現代技術の融合

このように、太古の時代から自然と共生し、建物を築いてきた先人たちの知恵と技術を、現代の技術に翻訳し、再構築していくのが、日本における本当の環境共生建築です。当プロジェクトを通じて類設計室が出したこの答は、日本の伝統家屋と同様、各々のユーザーが自らの体感に応じて、窓を開けたり閉めたりするという当たり前の感覚と合致します。機械任せの全自動制御や、施設管理者任せの遠隔コントロールではなく、各所で働くユーザーが、自らの体感に応じて環境装置を操作することを通じて、自然への感謝や、環境技術の工夫などを肌で感じていただけたら幸いです。