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富永サービス付き高齢者住宅

5年間の分析・検討を経て、新しい領域に踏み切る~クライアントの想い

脳神経外科の最先端を走る富永病院との出会いは、1997年の構想から竣工まで10年に亘った病院建替えプロジェクトに遡ります。病院の設計以降も、事業パートナーとして、共に新しい領域を検討するため分析・検討を重ねてきました。そして2011年の夏、サービス付き高齢者住宅への展開を決断するに至り、事業企画を経て、設計に至っています。

富永理事長は脳神経外科の名医として評価が高く、全国でも有数の手術件数を誇ります。病院の理念に、「一人でも多く救命し、一人でも多く後遺症なく社会復帰させること」があります。脳梗塞などで倒れた方を、命を助けるというレベルに留まらず、大きな後遺症を残さない手術を行うという、高い目標を持って執刀をされています。

「福祉という新しいサービスへの展開に踏み切るという話を聞き、最初は驚きました。しかし、サービス付き高齢者住宅を、高度な医療技術のバックアップによって運営することで、退院後の方々にも安心して生活できる場を提供できるという、強い想いがあるのだと感じました。」(ディレクター 積)

社会から期待される医療福祉サービスは何か?

サービス付き高齢者住宅は、2011年度に制度が創設された新しいタイプの施設であり、参考となる前例はありません。高齢者に対応したバリアフリー住宅という以外に、有料老人ホームのように様々な介護・医療サービスを併設させるサービスとして組み立てることも可能でした。無数の可能性の中から、社会から本当に必要とされるサービスとは何か?将来を予測し、期待されるコンセプトを見出すには、事例研究や介護福祉の本を読むだけでは不十分でした。

まず構想段階では、徹底的に歴史を遡ることから始めました。そもそも家族という集団はどのように有り様を変えてきたのか、高齢者の役割はどう変わってきたのか、江戸時代以降の集団を構成する状況・課題・役割を整理していきました。
 「この追求を通し、本施設の役割は、地域共同体のようなコミュニティを、高齢者が自ら作ることができる場を目指しました。そして、退院後の病気の心配がある方、高齢で病気の心配のある方、大病を患った方全てを受け入れ、コミュニティに参画する活力をつくっていこうとしました。」(企画調査房 橋本)

これら社会の期待と、富永病院が持つ高度な医療を融合したサービスとして、施設内に地域最大級の通所リハビリ施設と、脳神経に繋がりが強い眼科診療所、そして住宅に居ながら介護サービスを受けられる訪問介護サービス事務所を併設することになりました。

「実は、初期段階では、最上階に大浴場や、カフェ、フィットネスを設置する案を勧めていました。しかし、社会からの期待や病院の想いが鮮明になるにつれて、方向性を大転換しました。大きくサービス内容を転換する中でも自信を持って推進して行けたのは、歴史まで遡り、徹底追及し、クライアントに得心していただけたからだと思います。」と、橋本は振り返る。

居住者の想いを共有するから、建物が統合される

設計工程に入ると、さらに多くの成員がチームに加わり、技術検討を進めていきます。 「建物を統合するためには、チームの意思統一が生命線です。今回のような新しいサービスを構築する上で、チームを統合に導くためには、『居住者の想い・期待』を鮮明にすることが不可欠です。」(積)

病気に不安を抱えながらも、まだまだ自活できる元気な人たち。都市の利便地での生活を選び、集まって住むことを期待する人たち。・・・出てきたイメージから、具体的な居住者像がいくつも浮かび上がりました。
 さらに、居住者が歩んできた時代をおさえ、意識の変化を探っていきました。この施設に入居する世代は、日本が貧困だった時代に生まれ、70年代以降の貧困の消滅、80年代バブル、2000年以降の日本の混迷期など、社会構造の大転換を最前線で感じてきた世代です。若かりしときは、地域コミュニティから飛び出し、都市生活に希望を抱き、豊かさを追い求めてきました。そして、人生の後半は豊かさの追求が目標ではなくなり、人の繋がりや人の役に立つことを喜びとする意識へと変化していった時代を、心の底流で感じてきた世代です。

「その方々の人生の中で、日本の意識潮流がどのような変遷を経てきたかをしっかり把握しておくことが必要になります。一方で、マスコミの喧伝するようなステレオタイプで判断しても、実態とはずれてしまいます。類の社員全員が、常に社会を見つめ、人々の意識の先端を探ってきたからこそ居住者の想いに同化し、建物を統合していくことが出来たのです。」(積)

居住者同士の交流が誘発される空間づくり

「富永病院による充実した介護医療サービスと、大阪都心の難波の好立地にふさわしい施設グレードが求められていました。入居してくる高齢者は、かつて企業戦士として戦い、豊かな生活を夢見た生活を、この住宅でなんとか実現したいと考えました。そこで、インテリアデザインは、彼らが憧れたヨーロッパのホテルのインテリアをイメージしています。濃い色目の木調、淡い色の大理石で統一しています。同時に、豊かな広さや吹抜けのある開放空間によって心地よさを生み出し、居住者同士のコミュニケーションを誘発するデザインとしています。」(デザイン房 若林)

また、毎日入居者同士が集う食堂や、その隣には多目的室を配置し、各種イベントで食事を提供できる計画となっています。最上階には、趣味の会や交流の会などが開催できるラウンジが備えられています。

施設の豊かさに加え、その基盤には、共同性やコミュニケーションが再生され、心の豊かさ、居住者同士の繋がりの豊かさが拡がっていくことを目指して計画されています。

医療と福祉の総合力で、さらなる社会貢献に挑む

外観デザインは、道の向かいに建つ富永病院と同じタイルを使っています。外観イメージを統一することで、ひと目で関連施設であることを表現しています。高い医療技術に裏打ちされた福祉サービスを提供し、総合力でさらに社会貢献していく。その第一弾がこのサービス付き高齢者住宅です。

「今後、このサービス付き高齢者住宅の活躍によって、医療の分野だけでなく、介護のノウハウも獲得・高度化されていくでしょう。私たちも、その歩みに寄り添いながら、社会が求める新しいサービスを探求していきたいと思います。」(積)

  • 類設計室 ディレクター 積 満也 1984年:入社、意匠設計に配属 1991年:ディレクターに配属、現在に至る
  • 類設計室 デザイン房 若林 勇夫 1991年:入社、デザイン房に配属、現在に至る
  • 類設計室 調査企画房 橋本 宏 2007年:入社、意匠設計 内部系に配属 2009年:環境設備房に配属 2011年:調査企画房に配属、現在に至る