Story5

福井県若挟町農村総合公園

地域の次世代リーダーを育て、農村を再生する 類設計室 営業統括部 前上 英二

社会の期待に肉薄し、本物の事業を提案

毎年恒例の秋祭り。今年の祭りも笛・太鼓の音が町中に響きわたり、にぎわいを見せています。この祭りの推進役の多くを、全国各地から定住を決めた農業生産法人かみなか農楽舎の卒業生たちがつとめています。
 平成14年の設立以来、研修卒業生は34名、地元への就農者は21名、家族を含めれば40名を超える定住者を生み出しました。
 「卒業生の多くは集落を支える若いリーダーとして活躍しています。今では、集落の担い手として欠かせない存在となっています」、本事業の構想から携わり、取締役を兼任する営業統括部の前上は、彼らの成長を父親のように見守っています。

当初、町においては、観光客を対象とした「観光農園」の施設を整備する構想がありました。しかし、一過性の観光客だけでは、根本的な農村の再生にはつながりません。類設計室は、新規就農者の育成と地元への定住を主たる目的とした、法人の設立と施設の必要性を提案しました。
 農村再生の中心課題である若者の就農・定住そのものに焦点を当て、農村共同体の気風を濃厚に残す、地元集落の持つ潜在的な力を引き出していこうと考えたのでした。
 「当時、若狭町は全国と比較して10年早く高齢化が進行していました。後継者問題や耕作放棄地の問題も深刻でした。一方で、都市では農や自然を求める若者も増えてきており、農村への期待感も高まっていました。この二つを結び付けようとしたものが「就農定住事業」です。」(前上)

集落・行政・類が三位一体となり、新しいまちづくりがスタート

しかし、事業を推進していくにも、課題は山積みでした。就農定住事業は全国でも例がなく、都市から集落へ、本当に定住してくれる人がいるのか、誰も確信を持つことはできなかったのです。
 そこで前上は、まず地元集落が持つ潜在的な力を引き出すため、若者を連れてくることから始めました。関西を中心に活動している学生団体の自然体験イベントに参加し、農や自然を中心に活動している学生と一緒にファームステイを企画しました。

2ヶ月に1度の企画を1年間継続することで、地元集落と都市の若者の交流は急速に深まっていきました。農家の中には、何十年も倉庫に仕舞っていた稲木を出し、若者にはさ掛けを教えるようになったところも。地元集落のやる気に火をつけることに成功したのです。
 「このプロジェクトを成功に導くためには、集落、若狭町、私たちが三位一体となってじっくり運営の基盤をつくることが必要不可欠でした。1人1人が、町について考える当事者となるための、土壌作りには労力を惜しみませんでしたね。」前上は、かみなか農楽舎が誕生するまでの3年間、足繁く若狭町に通って実現の下支えをしていったのです。

地元の環境に合わせた施設計画

プロジェクトの核施設となる福井県若狭町農村総合公園では、農業生産と併せて、農業研修事業と体験交流事業が行われています。敷地には有機農法にも取り組みやすいよう、四方を山に囲まれた土地が選定されました。公園内には木造の研修施設が設けられ、研修生の生活の場として、また体験事業に参加する子供たちの滞在の場として利用されています。公園のマスタープランと施設の設計を類設計室が担い、地元の民家の特徴を活かした設計が行われました。

「2年間の研修期間中、研修生らは寝食を共にします。建物入口には土間を設け、室内にはいろりを中心とした大広間を計画し、“円居(まどい)”を重視しました。また、 住んでいる人のみならず周りの人も集える開放的な空間としました。」(積・研修施設担当ディレクター)

就農定住の核となる法人の経営を担う

このプロジェクトにおいて類設計室が果たした役割は、公園と施設の計画、研修・体験の事業立案にとどまりませんでした。公園の運営及び就農定住の核となるかみなか農楽舎の設立に当たっては、若狭町、地元集落、類農園とともに加わり、運営実務の核となる統括人材を派遣する等、直接経営を担うことになりました。
 その中で営業統括部と調査企画房が主体となって、研修生や体験希望者の募集、そのための広報企画を行い、さらには都市の若者を対象とした就農のための研修にも直接携わっていきました。また、農作物の都市販売ルートの開拓も分担しています。
 法人を立ち上げて数年後、経営はようやく軌道に乗り始めました。平成18年度からは単年度黒字転換を果たし、経営面積は35ha、体験事業の参加者は年間2,000名以上を数えます。

 また、法人の地域と農への貢献に対して、農林水産省主催の「平成21年オーライ!ニッポン大賞・審査委員会長賞」や、毎日新聞社主催の「平成24年グリーンツーリズム大賞」を受賞しています。

 就農定住化による農村の活性化という、第一段階の目的は達成されたと言えるでしょう。

新たな農村活性化事業をつくり、次世代のリーダーを育成する

現在、かみなか農楽舎は新たな取り組みに入っています。これまで、類設計室や地元のベテラン層を中心に経営計画を行ってきましたが、平成27年度を目処として社員の拡充を図り、自立して経営計画・技術蓄積を構築できる体制へと準備を進めています。

これまでの経営データの情報共有に加えて、類グループ社会事業部と協働し、「社内ネット」による新たな技術蓄積の開発にも取り組んでいきます。また、異業種との交流や研修会を通じて、社員の経営的視点の習得にも力を入れていく予定です。

「これまでは、集落・行政・類が協働してきましたが、次代はかみなか農楽舎の社員自身によって、そして卒業生らとの共同事業によって、地域を更に元気にしていくことが目標です。

さらには、かみなか農楽舎が先駆者となって、全国に同様の就農定住事業の事業体をつくる、社会が求める新しい仕組みをつくっていくことが私たちの役割であり、最もやりがいを感じるところです。」(前上)
 社会から期待されるプロジェクトをいち早く実現していくこと、今後の農村活性化ビジョンも、ますます具体的に描かれているようです。

  • 類設計室 営業統括部 前上 英二
  • 類設計室 ディレクター 積 満也