豊中市立庄内さくら学園
豊中市庄内コラボセンター「ショコラ」
2023年 大阪府豊中市
建築探訪編
学校と地域が一体で
子どもたちを育むまち
片方は学校、片方は地域センター。2つの建築を一体的に計画しました。間に路地を挟みます。「あいさつロード」と呼ばれるその路地で、児童生徒と地域住民があいさつする。それは地域が子どもを見守り育む姿で、この建築が目指した風景です。
ここ豊中市南部地域は、人のつながりが活きていて、まちぐるみの子育てを大切にするまち。そんな地域にふさわしい建築のあり方を提案しました。使い方が違う学校と地域センターですが、あいさつロードを挟んで隣り合わせることで、子どもにとって身近なところに外の社会があり、それをしっかり大人が見守れる、そんな環境が生まれています。
地域が見守る
通学路地
通学路兼地域の生活道路「あいさつロード」

商店街を抜けた住宅街のなかに大きなテラスが重なるファサードが現れて、一目でこの建物とわかります。敷地内を南北に貫通する中央の路地は、「子どもたちにとっての通学路」であり、「地域住民の生活道路」でもある「あいさつロード」です。同じデザインの2棟が隣接していますが、路地の西側(写真右手)は1~9年生の児童生徒が通う義務教育学校「庄内さくら学園」、東側(写真左手)が図書館、子育て支援センター、市役所出張所、貸室機能などのある地域センター「庄内コラボセンター(愛称ショコラ)」です。
路地には街路樹とストリートファニチュアがあり、建物の入口があり、人々の様子が見え隠れし、2階にテラスが張り出しています。それは都市の街路のような風景です。この通りで、児童生徒と地域の大人がすれ違い、あいさつする。これが学校と地域をつなぐ中心的な場になります。ときには、ここはイベント会場としてブースが軒を連ねるなど、地域センターと学園が連携し、交流する場にもなります。
子育て支援センターを路地に面して配置することで、子育て世代と地域の子どもを見守ります。もうひとつ路地に面しているのが、さくら学園のランチルーム。地域ボランティアが子どもたちのために朝ご飯を提供する「あさごはん食べよう会」としても利用されています。



建物入口は路地に面しています。さくら学園昇降口からは、エントランスホールの奥の、グランドまで視線が通り、子どもの気配が感じられます。


大人と子どもの
寄り道建築
コラボセンターのエントランスホールと吹き抜け

「今日、ショコラ行く?」下校途中で子どもたちが声を掛け合います。放課後は、学校でも家でも無い、子どもにとっての外の社会に触れる時間。その時間を過ごす寄り道先となっているのが、すぐ隣の地域センター「ショコラ」です。ここは自由な空間。
1階は、古本棚に面したカフェ前テーブルにはじまり、大階段を上がっていくと、各階で吹き抜けに面したテーブルとイスがあります。仲良しグループでひとつのテーブルを囲んで、おしゃべりしたり、勉強したり、吹き抜けを介して互いの様子を感じられる空間となっています。
自由な空間である一方、マナーを守る責任を果たす空間です。迷惑行為は施設の大人が注意する。そうした見守りの目が近くにあることも、子どもたちは知っています。ときには学園の先生も登場します。そうした施設間の連携・交流が、まちぐるみで子どもたちを見守り、子育てにつながっています。



寄り道したくなるのは子どもばかりではありません。図書館があり、レンタルルームがあり、子育て支援、介護支援のサービスが集中している、大人の寄り道の場所でもあります。



空中路地
さくら学園とコラボセンターの各階テラス

コラボセンターもさくら学園も、各階の外周にはすべてテラスが廻っています。テラスは2階のブリッジで連結されていて、2つの建物間で連携、交流する使い方の展開を可能にしています。路面のあいさつロードで繰り広げられるつながりの場が、上の階にも拡張していける余地が生まれました。




テラスには各階に植栽があり、4階の畑では、地域ボランティアや、ボーイスカウトが手入れをしているほか、若者支援でも活用しています。また3階では、植栽の雑草を食べてくれるヤギを放し飼いにしたこともありました。飼育や交流イベントには地域住民や近隣の大学生が関わりました。

あっちもこっちも、
みんなで集まる
さくら学園の各種オープンスペース

さくら学園は1年生から9年生まで一貫して教育する義務教育学校です。幅広い学年を包含しているため、児童生徒間の交流も重視しました。そこで計画したのが随所に配置したオープンスペースです。ワイドな昇降口の下駄箱の向こうには大階段とその周辺に大空間「交流スペース」を用意しました。大階段は発表空間として使えるように設えていて、子どもたちの成果発表の場であり、その姿が地域からも見えるようにしています。


中学生に相当する7~9年生のフロアには、吹き抜けに「オープンスペース」を設置。高学年どうしの交流を図っています。戸を開放すると屋外テラスと一体的な利用が可能なマルチ空間です。休み時間の居場所としてだけでなく、学びの拡張空間になっています。広々として気持ちがいいので、1、2年生の児童も高学年にまぎれて走り回っています。この学校ならではの光景です。


教室は中廊下型で、普通教室と支援教室、トイレを配置していますが、教室を雁行配置することで、中央に幅広い廊下スペースをつくりました。廊下は普通教室と連続させてスペースを拡張したり、学年ごとに集まる「学年広場」として機能しています。


ふたつの図書館
さくら学園の学校図書館とコラボセンター内の市立図書館との連携

さくら学園とコラボセンターをつなぐブリッジは2階にありますが、その階に意図的に配置したのが2つの建物のそれぞれの図書館です。これは学校図書館と市立図書館が連携・相互利用しやすいように行き来できるようになっています。

イラストレーション|久米火詩
写真|メインビジュアル:新建築社写真部, 1–18, 20–28:菅原康太


