弊社東京本社の共創拠点「Root」にて「共創シンポジウム~森を育み、活かす、これからの木造建築~」を開催しました(前編)
弊社東京本社の共創拠点「Root」にて12月5日(金)、「共創シンポジウム~森を育み、活かす、これからの木造建築~」を開催しました。弊社設計事業部の社員と木造建築に関係するさまざまな分野の方々にお集まりいただき、弊社の奈良と神奈川の事例を取り上げ、木造建築の在り方と未来についてクロストークを行っていただきました。概要は前編後編に分けて報告させていただきます(今回は前編です)。昨年の共創シンポジウムの様子はこちら
シンポジウムは当日、リモート視聴も入れて約130名の方が参加しました。進行は二部制で行われ、第一部は「奈良の山を育み、共創から生まれる自産自消の木造建築」、第二部は「中大規模木造の木材活用の知恵」と題し、弊社がかかわった奈良と神奈川の事例を取り上げ議論しました。
登壇者は、第一部が株式会社計画・環境建築の杉本洋文代表取締役会長、森庄銘木産業株式会社の森本達郎専務、弊社の小林有吾設計事業部ディレクター・農園事業部長。
第二部では、ナイス株式会社の前田力理事・日本WOOD.ALC協会理事、株式会社中東の宮越久志専務取締役、弊社の多田奨設計事業部監理部課長が加わりました。
(以下、弊社側は敬称略、その他の皆様の敬称は「氏」で統一させていただきます。文末に登壇者の皆さんの紹介をさせていただきます)
「循環の物語」「生成の物語」が持つ価値を意識する時代
開催に当たって、弊社の岩井裕介取締役常務執行役員 東京設計室長が挨拶の言葉を述べました。

岩井「これからの建築に求められる価値やデザインについて、業界の従来の評価軸を超えて、建物そのものを作り出す過程が持つ価値や建物が使われていく中で、どのようなものが生み出されていくのか、どのような繋がりが作っていけるのかという、『循環の物語』が持つ価値や『生成の物語』が持つ価値というようなものを非常に意識しなければ、いけない時代になってきていると思います。
そんな中で、『木を使う』というこの木造が持っている、非常に豊かな世界がそのヒントを与えてくれると大変に思っております。我々自身も、この領域を本腰入れて学んでいきたいと思っている次第です。
本日も紹介させていただきますが、奈良の方に『農と学びの共創拠点VUTAI』が先日竣工いたしました。その建物がどのようにして作られてきたかということもご紹介できればと思っております」
森本氏にも同じく挨拶の言葉をいただきました。
森本氏「私たちは奈良の宇陀市で林業と木材加工を行っている会社です。我々が山を育てる、木を育てる立場だとすると、皆様はその木を生かしてくださる料理人のようなイメージなんです。加工屋さんであれ、設計士さんであれ、それを生かしてくださるプロの皆様だと思うんです。
本当にどうすれば、お客様により良い木を、山を生かしたものが届けられるのか、そう考えていた時に、こういう場を通して学び合いの機会を設けさせていただきたいなと思って、私どもからもお声がけをさせていただきました」

第一部「奈良の山を育み、共創から生まれる自産自消の木造建築」
第一部では、弊社が11月15日に奈良県宇陀市に新たに建てた施設「VUTAI」について取り上げられました。VUTAIは「農と学びの共創拠点」という理念のもと、弊社農園事業部「類農園」の土地に新たに建設されました。これまでの農園事務所と作業場を高度化のために新たに整備し、さらに企業研修や学生たちの学習ができる宿泊滞在が可能な施設が誕生しました。
VUTAIでは「広間」と称した多目的スペースや宿泊滞在のための部屋、農園の事務所などがある建物は木造建築です。小林はその設計統括を担いました。

自社の山を活用することから始まった
小林「弊社は宇陀市に自社所有の山があり、そこから切り出した木を使用しています。その活用を最初から最後まで森庄さんと一緒にやったというのがこのVUTAIのプロジェクトの概要です。広間となる会議棟は宮大工さんに全国から選んでいただいた木を使い、その周辺建物は自社の山から切り出した木を使っています。
実は自社で山を持っていることは社内でもあまり知られていなくて、せっかく持っているんだからプロジェクトに使いたいよね、というところから始まっています。でもそんなに木造も慣れていない。どうしようということで、農園事業部で繋がりのあった森庄銘木産業を紹介していただいたんです」。
森本氏は全て一から始まった関係だったと振り返りました。

プロジェクト初期から密なコミュニケーションが取れていたことが良かった
森本氏「類さんと出会ったのが11月でした。ご相談を頂いて、境界ってなんか書いてあるんですか?お隣さんって知ってますか?とか、枝打ちした記録とかありますか?とか。実はそんなに情報がないところからスタートしました。
今回は木を化粧で使うということでしたので、伝統的な『冬切り』をするには、工程は駆け足。(そのようなタイトなスケジュールでも)最初の段階からコミュニケーションがちゃんと取れていた状態だったので、一本一本、立木の胸高直径を測って、造材、製材についても話し合いながら進めることができました」

小林「弊社社員も含めて一緒に山に入って木を選定したり、社員がチェーンソーを使わせてもらって伐木に参加させていただくなどしました。自社の山の木を活用するという当初のコンセプトを踏襲するため、設計自体は採れる木の大きさに合わせ、無理をしない適正なスパンで構成しました。事務所だけはどうしてもオープンな空間がほしいということでトラス構造にしました」
はじめからコミュニケーションをしっかり取って「共に創り進めた」ことが今回、上手くいったポイントだと、森本氏、小林は語りました。


山へ行き、木を見て設計すべき
小林、森本氏の話を受けて、杉本氏はVUTAIの事例に触れ、次のように話してくれました。
杉本氏「木を使って建てる場合、大体1年では無理なんです。前年度に切っておかないといけない。そうすれば十分な乾燥期間ができると思います。やはり計画的に木の選定からするところからやっていくことが一番重要です。
設計者は山へ行き、木を見て設計すべきですね。産地へのこだわり、地域材などそれぞれの材を適切に使うこと。山に行かないで、木造は設計できません。やっぱり木を見てその木がどう出てくるかを知って設計するって、すごく重要だと思うんです」

どう組み合わせてデザインしていくかが大事、そういう時代が来た
トークの最後に、3名は次のように述べました。
小林「空間を考えると、内装の木質化ですよね。これだけでも十分雰囲気は出ますが、耐火木造にしたら全部隠しちゃう。だったら木造の意味あるのかと思い、木を現しにできる空間にすることを最大の課題として、法令課題にも取り組みました。真壁するためにちょっと構造用合板とか敢えて残しています。仕上げを貼ると全部大壁になっちゃうので。こうして、真壁で120角150角の空間を実現しました。丸太を使うという話もそうですが、こういうふうにやれば木の価値って出てくるのかなと思うので、今後も一生懸命検討していきたいと考えています。
また、杉本さんに環境面から語っていただいた『海外では再造林した印が木についていないと使えない』という例の話が表しているのですが、木造は炭素の固定量は圧倒的なんで、そういう側面も魅力なんだと思います」
森本氏「(人の時間軸から見たら)木って、一代で育つものではない。その意味で、誰かから託さているものなんです。我々が木を使えるのも、誰かが育ててくださったからなんです。木を使う意味っていうのは、『(現世代が)渡されたバトンを受け取っていること』なんだと思います。それは、次の世代に向けて『バトンを渡せるか』ということでもあると思います。リレー自体が意義のあることなんだと、ここをみんなでもっと考えていきたいですね」
杉本氏「森は何をしているかといえば、我々が出す二酸化炭素を吸って、地下から栄養を入れながら二酸化炭素を固定しているわけです。雨が降るとその雨を受け止めてくれている。それをまた地下水として川へ持って行ってくれているんです。
故郷や実家に帰ると懐かしい気持ちになります。人間の体の細胞は約10年で入れ替わっているそうなんですが、その入れ替わりで何を使っているかというと水と酸素です。だから実家に帰った時に庭にある柿の木が出している酸素を吸うと、実はそれが懐かしいという感覚をつくっている――そう言った学者がいます。我々はそういうふうに木や土など自然とリンクし、恩恵を受けているんだと思います。

しかし恩恵を受けているのに、木がどうでもいいなんていうのはおかしいいですよね。自分の故郷の木、自分の周辺にある木とはそういう関係なですから、そこをちゃんと考えていく必要があります。
よく話すんですが、(木目などが)プリントされた木と無垢(むく)の木を触って比べていただくと、女性はほとんど、無垢の木を選ばれます。木の細胞は空気でできていて、手を置くとその温度が細胞内の空気を温め、それが(暖かさとして)戻ってくるんです。縁側が冷たいというのはみんな合板の木。無垢の木でつくれば、座っているとぽかぽか暖ったかいんです。
一方で、ただ木造にすればいい、というもんじゃない。鉄骨、RCとか、やっと木造がその技術に使えるようになりました。それぞれの特徴を生かしてつかうべきなんです。木造の基礎はRCだし、接合部には金属を使いますし、木だけでつくらなきゃいけないということはありません。ハイブリッドすればいいんです。木も地域産材、国産材、輸入産材など、それをどう組み合わせてデザインしていくかが大事です。そいう時代が来たとお考えになっていただきたいですね。
アカデミックな場では木造を扱う機会はまだまだ少ないです。このような場(共創シンポジウム)に来て、木造の知識を入れていただいて、もう 1 回 RC や鉄骨の建築の考え方っていうのを見直していただくのもすごく重要かなと思います」
最後の杉本氏の話が終わり、聴衆の皆さんからの大きな拍手とともに第一部は幕を閉じました。
杉本氏や森本氏が指摘されていましたが、日本の山では現在、木を切っても山主に入るお金は1本当たり500円から1000円しかない。そのため現状、切った後の再造林は3割ほどしかない状況にあります。そのような中で、建築と山の仕事をされている方々の距離を詰めることが重要になってくるということはとても重要です。今回のVUTAIのプロジェクトについては、最初の段階から森庄様と手を取り、かかわる弊社社員も山に入るなど、コミュニケーションを取って進めたことはまさに「建物そのものを作り出す過程が持つ価値」に違いありません。
第二部の内容は次回後編にて掲載する予定です。
【登壇者のご紹介(弊社除く)】
杉本洋文氏 株式会社計画環境建築代表取締役会長
長年に渡りRC造が主流だった時代から木造建築の可能性を追求してきた木造建築の第一人者。2004年から15年間、東海大学工学部建築学科教授を歴任。
森本達郎氏 森庄銘木産業株式会社取締役専務
林業活性化と循環型社会の実現を目指し、地域材の活用、人材育成といった社会活動にも貢献。木材業界の移り変わりを肌で感じられ感じながら、伝統技術と現代ニーズを融合させた経営を実践。現在は創業 100 年を見据えた事業改革を推進し、未来の森をつくることを目指し、持続可能な林業経営・地域林業・木材産業の価値向上に注力。
前田 力氏 ナイス株式会社理事・一般社団法人日本ウッド ALC 協会理事
建材住宅の専門商社ナイス株式会社の理事を務める。一般社団法人日本ウッド ALC 協会の理事を兼任。木材と ALCの特性を組み合わせた乾式壁カーテンウォールの普及に尽力。従来の木造建築の課題であった耐火性能の向上、木質化促進の両立に尽力。
宮越久志氏 株式会社中東専務取締役
木造建築の技術革新、特に中大規模木造の分野で高い技術力を有する。石川県屈指の大型工場と高度な生産技術により、大断面集成剤や CLT の製造としては国内最大サイズの製造が可能。構造材として、石川県産材のスギや能登ヒバなどを積極的に活用し、国産材の利用拡大にも貢献。


