「知耕実学」を深化させる学び舎
建物は既存校舎と接続される特別教室棟(3,351.05㎡)であり、工事ステップの都合上1期工事と2期工事に分かれており、1期工事が竣工済み。2期工事が施工中で2028年3月に完成予定である。
今回特別教室棟として、1階には、学びを耕す共創空間=知の融合を期待し、自発的に使えるラウンジ(1期)や図書館(2期)を20m×100mの一面フラットスラブの一体空間に配置し、教科や学年を越えて学びを掛け合わせる「CULTIVATE FIELD」とした。
2・3階には、特別教室を配置し、学びを深める探求空間とし、企業や大学のラボやアートスタジオのような本物の探求空間「LAB/STUDIOゾーン」として設計した。
昼休みや放課後のラウンジには大勢の生徒が集まり、教え合い、イベントミーティングなど様々な活動が展開され「知耕実学」の実践の場となっており、図書室も一体に繋がり、さらに柔らかく、深く、混ぜ合わせる学びが実践される空間となっている。
昨今、ますます学びの多様化が進み、将来的な学びの変化に柔軟に対応し、建物自体が常に学びの進化・深化に適合することが求められる。
そのためのポイントは2点。生徒の人数変化や授業形態に対応するための間仕切り対応(学習空間の変容への適応)と、実験設備の増設等にも柔軟に対応できる設備対応(学習環境の変容への適応)である。
既存校舎への接続を行う必要があったため、建物の階高が制限された。一方で、学びの校舎として、開放感を出すために、ボイドスラブを採用し、梁を出さない計画としてそれを実現した。梁型のないフラット面は乾式の間仕切り壁をつくるのに最適であり、将来の変動可能性もあげている。
廊下に面する間仕切り壁も、特別教室の用途に応じて展示棚や教室内の様子が分かるガラス開口を設けており、多様な空間のつくり方を実現した。
また、耐震壁は教室の間仕切り壁と干渉しないように外周やコア回りに寄せている。柱スパンを均等にすることで構造的なバランスを整えて力学的な合理化を図ると同時に、均質な空間構成が間仕切り位置の自由度を高めている。
本計画では、将来改修の負担を減らすため、設備を「更新しやすい構成」で成立させた。主な工夫は、①天井レス、②廊下幹線、③ファサード給排気、④PS最適化の4点である。
前段で触れた既存校舎接続のため、天井高が不足する恐れがあった。そこで教室は天井レスとし、開放感を確保した。設備機器の下端は床上2,600mm程度だが、スラブ下端は床上3,000mm以上となる。なお、コンピュータ室や家庭科調理室などは用途に応じて天井を設けている。
2・3階は中廊下型とし、廊下に設備のメインルートを通した。これにより両側教室へ効率よくユーティリティを供給できる。更新や増設の際も、廊下側から段階的に対応しやすい。教室内の影響範囲も小さく抑えられる。
特別教室は火気利用や局所排気などで、給排気設備が増えやすい。予備スリーブ方式は、ダクト寸法や位置が固定され将来自由度が下がる。そこでスリット型給排気を採用した。外周梁を外壁ラインより外側に通し、梁と外壁の隙間を給排気経路に利用する。給気と排気は離して配置し、ショートサーキットも防いでいる。
梁を外側に出すことで、柱際で竪配管を通しやすくなる。梁回避のためにPSが教室内へ張り出す状況を抑えられる。結果としてPS寸法は最小限にできた。一方、特別教室は配管量が多くPSが大きくなりやすい。そこでPSは教室に広く面させ、掲示面として使えるようにした。PS背面はカーテン溜まりとしても利用できる。
子どもたちの校舎そのものを学びの教材になるように計画を行った。建築空間にそれが現れていることを発見し、サインで原理等を解説することで興味関心をひく仕掛けを散りばめている。ここでは①ボイドレゾネーター(1期工事)と②ワッフルフレーム(2期工事)について説明する。
1階は100mのボイドスラブ現わしの意匠で学びの一体感を表している。一方で、ラウンジの特性上、「吸音」要素が必要となる。そのため、本来吸音を行わないRC直天井面に孔をあけることで天井に吸音性能を付加(以下、ボイドレゾネーターと称する)。吸音書架と組み合わせることで、適切な音環境の1階のラウンジ空間を実現した。天井の孔の近傍で音の反響が僅かに変わり、サインで原理を表示することで、生徒の興味関心を促し、探究心を刺激することを意図した。
本ラウンジは、長方形平面の階高3.6mである。床仕上げはフローリング、天井がRC直天、外壁面は全面ガラス、その他は書架となっており反響の起こりやすい環境となっている。そこで書架には木毛セメント板+スリット吸音機構を採用し、中高音域の吸音性能を確保。加えて、低音域の吸音として、ヘルムホルツ共鳴を利用したボイドスラブの配管を用いた、吸音装置を開発した。
吸音性能としては下記計算式で算定。
f0=(c/2π)×√(s/V(l+δ)〔Hz〕2)
f0を平均吸音率0.7として、配管に内蔵したグラスウールによりf0より上下になだらかな吸音特性を示すと仮定している。
また、配管径は構造スパンから決定しており、躯体の適正な軽量化にも寄与している。
本件実現のため、ボイド管の加工及び脱型について設計時から施工時まで検証を重ねた。
1点目は配管加工による強度低下への対応として材料厚を上げた。また、グラスウールの接着性、加工性について検証を行った。
2点目は打設後の脱型の検証。ボイドスラブ裏はそのまま天井仕上となるため、設計段階、現場段階でサンプルを作成し、脱型実験を行った。結果として、木栓を型枠に取付けることにより、デザイン性能を満足する駆体の実現につながった。
完成した建物において、残響時間を測定した。測定方法は、ISO-3382 に従い、ラウンジ内でインパルス応答測定を実施し、残響時間を算出する。ラウンジに 12 面体スピーカーを設置しスイープ信号音を発生させ、各所に設置したマイクロフォンで収音する。測定された信号音(インパルス応答)の減衰性状を分析し、周波数毎の残響時間を算出した(図12,写真11,12)。
測定結果を表1に示す。残響時間としては、2秒前後を全周波数域で計測ができた。また、125Hzの低周波域の吸音を担っているボイドレゾネーターの効果が出ていることも分かる。一方で、250Hz~1kHzでは、レゾネーター及び書架吸音の吸音効果が弱まった。家具や吸音カーテン等が設置され、残響時間が短くなることが予想される。
既存建物との制約や高さ制限等の条件から、本建物では講堂を地下に配置する計画とした。一方で、講堂の特性上無柱空間が必須の条件であり、上階との柱配置の関係でお神楽形状となる。その条件を複合的に検討し、上階の力をワッフル上の梁で受けることで、力を分散させ、梁サイズを抑制する計画とした。加えて、上階の柱から受ける応力を解析し、応力に応じて梁せいや形状を変更することで、力の流れを可視化しつつ、講堂の天井のデザインとした。
施工的にも非常に難しく、ワッフルフレームの型を型枠で組み、そこにコンクリートを流し込むことで実現している。設計者はもちろん、施工者、型枠業者、鉄筋業者、コンクリート業者と膝を詰めて複数回打合せを行うことで、新しい形状のフレームに挑戦している。
この力の流れの形状は、数学的に説明できる回転楕円体を用いている。身近なものでは、卵やラグビーボール、地球の形状に用いられており、力の分散と視覚的に美しい、スペース活用の点が特徴である。この空間から生徒たちには、建築学からデザイン工学、航空工学、さらに数学といった実学への探求心を燃やせるきっかけとなることを願っている。
おおかわ・たいき
東京設計室 監理部
1991年福岡県生まれ 2014年有明工業高等専門学校専攻科修了 2016年筑波大学大学院社会工学先行修了 同年類設計室入社
1991年福岡県生まれ 2014年有明工業高等専門学校専攻科修了 2016年筑波大学大学院社会工学先行修了 同年類設計室入社
よねざわ・せいや
東京設計室 設備設計部主任
1990年千葉県生まれ。2015年東京大学大学院工学系研究科卒業、同年類設計室入社。
1990年千葉県生まれ。2015年東京大学大学院工学系研究科卒業、同年類設計室入社。
ぬまた りゅういち
東京設計室 構造設計部次長
1959年北海道生まれ。1984年東京理科大学大学院工学研究科卒業、同年類設計室入社
1959年北海道生まれ。1984年東京理科大学大学院工学研究科卒業、同年類設計室入社
かながわ・かずひろ
東京設計室 構造設計部
1995年兵庫県生まれ 2018年大阪工業大学工学部建築学科卒 同年類設計室入社
1995年兵庫県生まれ 2018年大阪工業大学工学部建築学科卒 同年類設計室入社
事業構想、設計業務、施設運用に関することなどお気軽にお問い合わせください。
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