広間での共創シンポジウムの様子
クロストーク

共創シンポジウム「〜森から考える、次世代へ繋ぐ木の豊かな未来〜」 イベントレポート_Session1

——Introduction

2026年5月16日。農と学びの共創拠点『VUTAI』(奈良県宇陀市)にて、『共創シンポジウム 〜森から考える、次世代へ繋ぐ木の豊かな未来〜』を森庄銘木産業株式会社と共同開催しました。“体感型”を掲げる本シンポジウムのコンセプトは、一本の木が生まれ、消費者の手に至るまでの「100 年の物語」と「山の現実」を五感で受け止めること。プログラムは「知る」→「感じる」→「問う」の計3部構成となっており、講演と対談の[Session1]にはじまり、つづく[Session2]では参加者全員で山に赴きます。森の現状を全身で感じながら、自らの手で木を伐る体験を通じて間伐に必要な技術や労力、言葉では捉えられない「命を間引く身体感覚」を共有します。最後の[Session3]では、森を未来に残す当事者として何を実践していくべきかを問う「追求型ワークショップ」で締めくくられます。当日は林業家から設計者、メーカー、教育関係者や学生の方々など、多様な世代・職能の63名が全国からお集まりくださいました。

登壇者

  • 杉本洋文先生(株式会社計画・環境建築/代表取締役会長)

    杉本洋文先生

    登壇者

    株式会社計画・環境建築
    代表取締役会長

  • 長野麻子氏(株式会社モリアゲ/代表取締役)

    長野麻子さん

    登壇者

    株式会社モリアゲ
    代表取締役

  • 小林有吾(株式会社類設計室 設計事業部 ディレクター/農園事業部 事業部長)

    小林有吾

    司会

    株式会社類設計室 設計事業部 ディレクター/農園事業部 事業部長

[Session1]

森を知らずして、木を語るなかれ。

———[Session1]はVUTAIの広間で行われました。はじめに登壇したのは、元東海大学教授であり、都市と森の新たな関係性を追求している株式会社計画・環境建築の代表取締役会長・杉本洋文先生です。祖父が経営していた伊豆の製材所で、木に囲まれて育った原体験を持ち、国内で先駆けて木造による大規模空間の創出に挑み続けてこられた杉本先生。その言葉に込められていたのは、木造建築への強い想いと現代の建築業界への鋭い警鐘でした。

杉本 かつて、熊本県のドームが7つ連なる森林館(球泉洞森林館)の建築に携わりました。その際、現地の木材を活用するべく山に入ると、日本の林業が抱える深刻な問題に直面しました。それは、山にお金が還元されず、森が荒廃していく現実です。これを食い止めるためには、鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)に代わり、大規模建築において積極的に木造を活用し、木材の需要を創出しなければならないと思ったのです。以来、西へ東へ、全国の産地に出向いて木をどう活かすかを考え続けてきました。鳥取県境港市の木造タワー・夢みなとタワーや、香川県瀬戸市の空海ドームはその成果と言えます。あらゆる取り組みを行うなかで、木造建築を社会に実装する壁は「意識的な問題から生まれる構造的な問題」であると分かりました。その一つが、日本では「どこの山で育ち、どこで管理された木か」を証明するFSC認証(※)に対する意識が極めて甘いこと。実際、市場には身元不明の木材が多く出回っています。欧州をはじめとする世界の木造建築市場では、トレーサビリティ(※)が証明できない木材は使用できないというルールが定着しています。トレーサビリティの欠如はつまり、国産材の輸出を阻害し、森林資源の持続可能性を不透明にしてしまうのです。さらに言えば、木材市場では立木が一立米あたり数千円という安値でしか評価されません。山から切り出して搬出するだけでも多大なコストがかかるのに、市場では高値で売れないため、差額を税金(補助金)で補填している状態にあります。鉄骨やコンクリートが主流の現代において、多くの設計者は木材を単なる工業製品としてしか捉えていません。設計者が安価な建材として木を消費し続ける限り、山主の手元に利益が残らず、再造林のサイクルは断絶してしまいます。

※FSC認証:正式名称はForest Stewardship Council(森林管理協議会)。
適切に管理・保全された森林から生産された木材・紙製品であることを証明する国際的な認証制度。

※ 木材のトレーサビリティ:木材が「いつ・どこで・誰に」よって伐採され、
どのような流通経路を経て加工・販売または廃棄されたかという履歴を追跡・証明できる仕組み。

小林 鉄骨やコンクリートと、自然の木との違いはどこにあるとお考えですか?

杉本 鉄骨やコンクリートは均質的ですが、木は一本一本が異なる個性を持ち、同じ種類でも育った森や樹齢によって性質は大きく変わります。我々がいるVUTAIの広間に立つ4本のケヤキの丸柱も、表面をよく見ると表情が異なりますよね。そして今、皆さんの足元は暖くて、過ごしやすいですよね。木は空気層の塊であり、足の裏から伝わった体温を受け止め、熱を返してくれているからです。これもまた木の個性です。個性を一つひとつ見つめることで、はじめてその木ならではの活かし方や、建物から生まれる活力までをイメージできる。さらに言えば、人間をはじめ、生き物が生きていくために必要な水と酸素は森がつくっています。命の循環を支える森を尊び、その恩恵を受けて、いかに建築に活かしていくか。設計者には、その責任があると思うのです。だからこそ、森をないがしろにしたり、木を単なる建築材料として消費して終わっていいのか?と問わねばなりません。厳しい指摘になりますが「森や木を見ないで設計する人は木造建築を設計するべきではない」と強く思っています。

木を伐る時代から、自然資本を活かす共創へ。

———続いてマイクを握るのは、農林水産省、林野庁を経て、現在は株式会社モリアゲの代表取締役を務める長野麻子さん。モリアゲは、森と街・人と木をつなぎ直し、たくさんの人を巻き込みながら森を盛り上げる取り組みを実行しています。「森は社会課題の宝庫であり、解決の難易度が高いからこそ仕事にはやりがいしかない」・「やがてモリアゲの仕事がなくなる社会を創る」ことを目標に掲げる長野さんからは、森が秘めるポジティブな可能性について語られました。

長野 皆さんに知っていただきたいのは、「日本の森がいかに可能性を秘めているか」です。そのために、まずは前提となる「日本の森の現状」からお伝えしていきます。日本は国土の約7割が森であり、そのうち約4割が人工林です。戦後の禿山に先人が植えてくれた杉は、半世紀のときを経て、まさに使い時。いわば、銀行に預けた元本から「利息が増え続けている状態」なのです。それなのに、林業従事者は年を追うごとにいなくなり、1980年比で約3分の1となる約4万4千人にまで減少しています。日本中の木こりを全員集めても東京ドームは埋まりません。その結果、日本の森林面積の約3割が「所有者不明」となっているうえに、山を保有する人々の3割が「森を手放したい」と考えていると言われています。こうして事実上放棄され、草木が荒れ放題になったり、逆に病気で枯れてしまう木も増えています。木を間引いて太陽の光を当てる間伐や、新しく木を植える再造林が行われない、ほったらかしの森が拡大しているのです。そして、森のある地域に住んでいる人は、全人口のわずか2.5%ともいわれ、森を管理する作業を山村の人たちだけに任せるのは物理的に限界を迎えています。都市に住む人々を巻き込んだ「共創」が不可欠です。なぜそこまで森に注目されないのか?答えはシンプルで、杉本先生のお話にもあった通り儲からないからです。しかし、決して悲観することはありません。むしろ、可能性しかありません。世界を見渡してみると「森を活かす時代」が到来していることがわかります。
2025年11月にブラジル・ベレンで開催されたCOP30(※)では「森を森として維持すること」自体に世界中の国々が資金を拠出するエポックメイキングな基金が創設されるなど、Nature Positive(自然再興)への機運が高まってきています。要するに、昔は森から「何を生産するか」にお金が出されていたのに対して、今は自然資本として「森林面積が維持されていること」自体が評価される時代になったのです。生物多様性の保全・土砂災害の防止・CO2の吸収とカーボンニュートラルへの貢献・健康増進をはじめとした森が持つ非市場価値は、日本で年間約70兆円に上ると推定されているからです。
再び思い出していただきたいのは、日本が世界に誇る森林大国であること。これだけ人工林をもち、これだけ経済している先進国は類を見ません。そして、すべての企業活動もサプライチェーン全体で俯瞰すると自然資本に行き着きます。自然資本に依存していない業種なんてないんです。実際、国内のCO2吸収量の実に9割を森が担っているという事実を多くの企業が認識すべきです。先人が残してくれたこの資産を打ち捨てておく理由はありませんし、どんな企業でも維持することに対する社会的責任があります。

※ COP30:地球温暖化対策について議論する国際会議。正式名称は「The 2025 United Nations Climate Change Conference(Conference of the Parties to the UNFCCC)」。

【クロストーク】70兆円の非市場価値をどう活かすべきか?

———本イベントではリアルタイムアンケートツール「Mentimeter」を導入。参加者が抱いた問いを基に登壇者によるクロストークが行われました。

小林 この莫大なポテンシャルを持つ森を、私たちはどのように活かしていくべきでしょうか。

長野 モリアゲが推進しているのは一社一山という共創モデルです。これまでのCSRは寄付して終わりという消費的な活動になりがちでしたが、このモデルは企業が特定の森と長期的なパートナーシップを組み、その管理・保全を自社の経営課題と結びつけていきます。例えば、CO2削減努力を収益化するカーボンクレジットにはじまり、社員のメンタルヘルス回復のための森林浴研修や、自社プロダクトへ地域材を導入するなど、メリットがたくさん。森と企業の接点を持続可能なビジネスとして設計できればと思っています。もっと理想を語れば、一社一山といった大きな枠組みだけでなく「お小遣いでも買える森」といった一人ひとりが自分事として関われる仕組みが必要だと考えます。
他にも、山形県金山町の森で行われている猛禽類(クマタカ・イヌワシ)に配慮した伐採による木材のプレミアム化や、鹿児島県阿久根市で森林組合と漁協が連携し、放置竹林をイカの産卵床(イカシバ)に転用する異業種共創など、森の価値を多角的に引き出すプロジェクトを次々と仕掛けています。今後は、愛知県岡崎市の株式会社もりまちのように、市役所や森林組合だけではカバーしきれない仲介機能を担う中間支援組織の存在が不可欠になってきます。

杉本 大きくは、まさに長野さんから語られた通りですが、従来の木材生産に特化した林業から森全体の価値を高め、多様な人々が関わる余白を創出する森林業へのパラダイムシフトが必要です。そのモデルの一つとして、木が当たり前に社会に根付いている社会が理想的です。ヨーロッパで木造化が進んでいるのは炭素税が導入された背景が大きく、木造建築がRC造と比較して経済的優位性を持つようになり、企業の社会的評価・信用の向上やテナントの誘致力に直結しています。木造のオフィスビルを建てると企業価値が上がり、家賃を高くしてもテナントが入ってくれるのです。短期的な調達コストだけでなく、長期的な自然資本への投資として森林資源を評価し、森と運命共同体になる必要があります。モリアゲが行うようにマインドセットの変革を促す取り組みが必要ですね。

私たちは「流域」で繋がれた運命共同体。

長野 そこで欠かせないのは山と都市をひとつの「流域」として捉える視点だと考えます。山で降った雨は川となり、豊かな栄養を運んで海へ注ぎ、私たちの暮らしを潤します。山の恵みや水害リスクの軽減など、森の恩恵を最も受けているのは、都市に暮らす私たちにほかなりません。山奥の村も、高層ビルが立ち並ぶ大都市も、いわば同じ水脈でつながれた運命共同体。森を守る営みを他人事として遠ざけるのではなく、都市に住む私たち生活者や企業が、当事者として関わっていく。その「共創」の輪を広げていくことが、持続可能な社会への確かな一歩となります。若い皆さんの専門性を掛け合わせれば、それは必ず実現できます。そして、世界有数の森林大国である日本において、ビッグビジネスチャンスであると声を大にしてお伝えしたいです(笑)。
余談ですが、都会の人は森と接する機会が少なく、調べによると東京23区に至っては3人に2人は全く森に行きません。森との物理的・心理的な分断が進行した結果、心の不調を抱える人が増えています。アスファルトの上を歩いて健康になろうとする前に、元気になりたいなら森に行くことをオススメします。最近では、森林浴によって人間の免疫機能が活性化する可能性を示唆する研究もあるんです。実際、ヨーロッパでは医療制度として確立しており、医師が自然環境での散策を治療の一環として処方するグリーン・処方箋(Green Prescriptions)が実践されています。

ハイテクで、ローテクを極める。

小林 会場からは「なぜ日本ではトレーサビリティの整備が進まないのか?」という質問が寄せられています。お二人のご見解をお聞かせください。

長野 最大の理由はコスト負担の合意形成の欠如です。牛はBSE問題を機に義務化されたトレーサビリティが存在しますが、木材の場合、その履歴管理にかかるコストを建材屋や施工者、あるいは施主の誰が負担するのかという社会的合意が形成されていません。

杉本 そこにテクノロジーを介入させる余地がありますよね。現在、ドローンやLiDAR、スマートフォンを用いた3Dスキャン技術を用いて、木の形状や高さ、樹齢をデータ化する取り組みが進んでいます。相互の情報伝達コストを下げることができれば、トレーサビリティは浸透していくはずだと考えています。
「ハイテクをつかってローテクを極め、ジレンマをテクノロジーで超えていく」という考え方を浸透させられれば、おのずと使用率が向上するはずです。昔の大工は、曲がった木を建築の見えない部分の架構に使うなどして無駄なく使い切っていました。昨今の建築では「まっすぐの木」のみが良いとされ、曲がった木は歩留が悪いため山に放置されたり、チップやバイオマス燃料として安価で売られて処理されます。ハイテクを使えば、木の持つ「不揃いな個性」をデータとして把握できる。そして、専用のソフトで建築物との最適な組み合わせをシュミレーションすれば、プレカット工場で弾かれてしまうような曲がり材でも立派な構造材として使用できるのです。

———会場の熱気が高まるなか[Session1]は終了。お金が還元されない構造的問題、担い手不足により荒廃していく実態など、「儲からない・人がいない」という森の厳しい現実が語られると同時に、企業との共創モデルやテクノロジーの力で新たな価値へと反転させていける希望と道筋について共有されました。次の[Session2]の舞台は、先人たちが植えた木々が生きる森です。参加者は類農園の直売野菜をふんだんに用いた弁当で昼食を済ませ、100年の物語を体感するために、ヘルメットを手にして鳥見山へと足を踏み入れていきます。

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  • 木の利活用とサプライチェーン
  • ネイチャーポジティブなまちと暮らし
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