森を育み、活かす、これからの木造建築
森本達郎
パネラー
森庄銘木産業株式会社
取締役専務
小林有吾
パネラー
株式会社類設計室 ディレクター / 農園事業部事業部⻑
杉本洋文
コメンテーター
株式会社計画・環境建築
代表取締役会⻑
PANEL DISCUSSION 1
2025年11月、奈良県宇陀市に、農業と学びの共創拠点「VUTAI」が誕生した。類設計室の農園事業部が使用する出荷場や作業所、オフィスに加えて、小中高生や企業の団体利用を受け入れる宿泊施設を併設。農と教育の共創によって、農業体験や地域の歴史体験など、社会に触れる学びの機会を提供している。特徴のひとつが、類設計室が所有する宇陀市内の山の木を間伐し、資材として活用していること。いわば「自分たちの山から調達する」自産自消の木造建築に挑んだ。
類設計室が所有する「自明の森」の面積は、約4.4ha(44,000m2)、樹種は杉:桧=9:1、樹齢およそ60年。戦後に植えられた造林地だった。ただ、その山の存在は、社内でも十分に知られておらず、計画がはじまってもなお、境界や隣接地、どんな手入れがされてきたのかといった基本情報もなかった。
小林 はじまりは、「どうやら自分たちは山を所有しているらしい」という、きわめて曖昧な認識でした。会社としてもその山の存在はほとんど共有されておらず、本プロジェクトの立ち上げをきっかけに、初めて社内で話題に上るようになったのです。「せっかく山を持っているのだから活かせないか」。そんな素朴な想いから既存の生産拠点の老朽化に伴う施設リニューアルで、自社所有林の木材を活用することになりました。
一方で、木をどのように伐採し、どのように活用すべきかといった知見は、社内にほとんどありませんでした。そこで農園事業部のメンバーに、「林業に携わっている知り合いがいれば紹介してほしい」と相談したところ、森本さんの名刺を手渡されたのです。
「まずは一度会いに行ってみよう」。その一歩が、この取り組みの本格的な始動につながりました。
森本 我々に相談が来るときって、まさにそんな感じからはじまることが多いです。境界はどこか、隣の山主さんを知っているか、手入れはされているか。情報がないところから、近所の方にもヒアリングしながら、当たりをつけていく。そこから一緒に山に入って、「まず歩く」ところからがスタートでしたね。
小林 一緒に山を見に行って、樹齢や状態、取れる材の特性を見てもらうなかで、「取れる木から設計する」発想に切り替わっていきました。森本さんには時間がない中でも、伐採のタイミングや乾燥・保管の段取りまで含めて、最後まで伴走してもらいました。あとで知ったのですが、木造って「いつ切るか」が本当に重要なんですよね。
杉本 切った後、乾燥期間が必要なので、木造は基本的に1年ではできません。森を育てる側からすると、短期間で加工まで詰め込むのは無理があります。一方、補助金を活用する場合、役所の予算は単年度が多い。木造をやるなら、伐るところから計画していくことが一番重要です。
小林 時間が許せば自然乾燥にしたかったんですが、今回はスケジュール的に厳しくて、機械乾燥になっています。最終的には、家具まで森庄さんにお願いすることで、空間としてもかなり統一感のある仕上がりになったと思います。
小林 「施設をつくる」から、「森とどう付き合い、木をどう使い切るか」。「VUTAI」のプロジェクトにおいて、木は単なる材料ではなく、設計の順序を決める計画の起点となっていった。
杉本 ⽊造には「歩留(ぶどまり)」という考え⽅があります。丸太は100%そのまま使えるわけではなく、製材してはじめて使える部分が決まってくる。⼀般的な製材だと、歩留はだいたい50〜60%。そして、近年注⽬されているCLTになると歩留がさらに下がって45%、場合によっては35%くらいまで落ちてしまう。だから僕は、資源利⽤として⼀番いいのは丸太建築で、次が製材だと思っています。現代建築で丸太を使うのは簡単ではありませんが、せめて製材でどれだけ活かせるかが重要になる。今回(VUTAI)はどのくらいの歩留だったんでしょうか。
森本 最終の歩留でいうと、50%を切るくらいでした。ただ、歩留の数字だけで終わらなかったのが、このプロジェクトの⾯⽩さでもあると思っています。たとえば東京本社のRootにある「天井吊の⽊ルーバー」や「カウンターの側⾯材」、「根っこのオブジェ」など、⽊の⼀部を空間の中で⾒せたり、さまざまな⽤途で活かしたり。コミュニケーションを密に取るなかで、歩留+αとして、いろんな提案を重ねながらプロジェクトを進めることができました。
杉本 周りの端材をチップにしたり、荒木にして使ったり、外壁も木でつくったりと、できるだけ100%に近づけるような使い方をされている印象があります。
森本 「木を余すことなく使う」と口にするのは簡単ですが、実際は、木を切る瞬間から「どう使うか」をデザインしなければならないんです。丸太にノコを入れる瞬間には、役割を与えておく必要がある。今回は、山に入って木を切る前に設計者とも詳細な打ち合わせができていたので、上手く使えましたね。
木造建築を支える森の現場は、価格構造の歪みを抱えている。伐採・搬出のコストを埋めるために国や県の補助金に頼る場面も多く、50年、60年育てた山主に残る利益は一本あたり数百〜千円程度。伐ったあとに植え直すのもコスト的に難しく、再造林率は全国平均で3割程度にとどまっている。
森本 林業は、従事者が年々減っている産業です。価格面でも厳しくて、物価が上がっているのに木材価格は下がっているという現象が起きています。実際に、製材所の倒産が相次いでいる、という話も耳にします。もう一つ、大きな構造として、戦後に植えた人工林が50年を超えて成熟している一方で、次の世代を支える若い木が少ないという状況もあります。伐ったあとに植え直される割合も高くありません。結果として、伐って終わり、放置される山が生まれてしまう。それが当たり前になっていることに強い違和感があります。
杉本 欧米だと、設計者が「再造林した印のある木を使っているか」を問われます。証明できないと使用許可が下りないケースもある。日本はそこが甘い。だから日本の木を海外に出そうとしても、履歴を証明できないという理由から輸出しにくいんです。さらに、木の値段は本当に安い、品質によって異なりますが、平均では50年ぐらいに育った立木の値段はスギで約4000円/m2でヒノキがその倍ぐらいになる。1年あたり80円/m2ぐらいになる。これでは植え直すこともできません。
森本 末端の価格が先に決まって、そこから逆算されるので、⼭にお⾦が還元されにくくなっています。伐採・搬出にはコストがかかるため、補助⾦で成り⽴っている側⾯もあります。結果として、植える・育てるという次の投資に続かないんです。さらに、⼭から建築までのサプライチェーンは縦に⻑い。多くの⼈が関わる⼀⽅で、「森を育てる⼈の声が、⽊を使ってくださる⽅々に届きにくい」。これも問題だと思っています。たとえば農業だと直売所のように“つくり⼿の顔”が⾒える場⾯があるけれど、なぜか林業ではそれがない。だから今回、僕はコーディネーターとして、森林プランから伐採、道づくり、搬出、乾燥、加⼯、納材までの⼯程をつなぎながら、「時間を共に歩んでもらう」ことを意識していました。
小林 設計事業部に、学生の頃チェーンソーで山の木を切った経験のあるメンバーがいたので、現場の作業を手伝わせてもらったり、東京チームも宇陀に来て、一緒にものづくりの時間を過ごしましたね。
森本 林業における一番の課題は何かと考えると、僕は「山を育てる人材不足」ではなく「木を育てる人材不足」だと思っています。山を育てる人材は、林業会社が責任を持って育成していく部分もある。でも、山の木を活かし切ろうとすると、設計・施工・流通など、その過程に関わる皆さん一人ひとりにかかっている。大切なのは、学び合いの時間をどうつくるかです。ツアーや研修も一つの手段ですが、実務を通して学べることはもっと多いと思います。設計者や施工者が木造のプロジェクトを進めるときには、まず「この木を育ててきた人に会いに行こう」という発想になってくれたら嬉しいですね。
そもそも「木を使う意義」とはどこにあるのか。空間の魅力としての木、森の循環としての木、身体感覚としての木。最後に3名の登壇者に、それぞれの立場から聞いた。
小林 内装の木質化だけでも、木の雰囲気は十分につくれる。一方で耐火木造になると、構造を隠さざるを得ない場面も多く、「木造にする意義は何だろう」と迷うこともあります。今回の「VUTAI」では、法制度の範囲のなかで、できる限り木の空間があらわになるように考え抜きました。真壁で木を見せるために、あえて仕上げで覆い切らない部分を残すなど、空間として木の価値が引き出せるような設計を目指しました。加えて、エンボディド・カーボンの観点でも、木造はCO2固定・排出の面で優位性があります。さきほど再造林の証明がないと使えない国もあると聞きましたが、環境の話と、空間の魅力、その両方が木造の意義として確かにあると思っています。
森本 木は、一代で育つものではありません。その意味で、誰かから託さているものなんです。木を使うということは、先人たちからバトンを受け取っているということ。それはすなわち、次の世代に向けて、バトンを渡せるかということでもあると思います。この世代を超えたリレー自体に意義があるということを、みんなでもっと考えていきたいですね。
杉本 森はCO2を吸収して木として固定し、雨を受けて地下水へとつなげていく。私たちの暮らしは、酸素と水に支えられていて、その循環に森は深く関わっています。その恩恵を受けながら、森をないがしろにするのはおかしい。設計者や施工者は、木の使い方を考えていかなければなりません。ただし、「なんでも木造にすればいい」という話でもない。基礎にはRCを使うし、接合には金物も使う。木材も国産材・地域材・外国産材も含めて、どうハイブリッドしてデザインするか。いまはその選択肢と可能性が大きく広がっています。木造を学び直すことが、同時にRCや鉄骨の考え方を見直すことにもつながる。そういう姿勢で向き合ってほしいと思います。
事業構想、設計業務、施設運用に関することなどお気軽にお問い合わせください。
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