田中 大介
中央区立晴海地域交流センター 館長
指定管理者:晴海コミュニティリード共同事業体
(代表企業 株式会社JTBコミュニケーションデザイン所属)
野村 徹
東京設計室 ディレクター
兼 監理部 部長
逆井 聖也
事業統括部 事業戦略課
兼 しごと学舎マネージャー
中央区立晴海地域交流センター「はるみらい」の年間利用者数は、約15万人。料理教室や工作教室などの開催イベントも年間70本を超え、地域の子どもからご高齢の方まで幅広い世代に利用されています。当施設の大きな特徴の一つに、地域住民を巻き込んだ「地域サポーター制度」があります。公募によって集まった住民が、「地域サポーター」として様々な形で施設の運営に携わっています。地域の人々が当事者となり、まちづくりに積極的に関わる「プロアクティブ・コミュニティ」を、という中央区の当初の構想が、施設運営においても体現されています。
野村 晴海というまちそのものをつくる、まちづくりの主体は住民の方であると。だからこそ、晴海地区に住む方々が集まって、どんなまちにしていきたいか、議論してもらえるような施設にしたい。そんな想いを、オーナーである中央区さんからは聞いていました。そこで、すべてをつくり込まず、壁を途中から塗らないままにしていたり、ダクトや配管を隠さずスケルトンにしたりと、あえて余白を残し、地域とともにつくり続ける建物にすることを設計段階では考えていました。
田中 みんなでつくり続けるという意味で、中央区の方針に沿って設けられたのが「地域サポーター制度」です。地域から広くサポーターを募り、たとえば、イベントの運営は「運営サポーター」としてお手伝いいただき、地域活動の参加者の輪を広げてくださる「交流サポーター」には趣味やボランティア団体の方が登録されています。
また、ご自身の趣味や特技を活かして「育成サポーター」として、はるみらいのイベント講師を担ってくださる方もおり、地域の方々には様々な形で関わっていただいています。さらに、中央区と地域住民代表(晴海地域交流センター運営協議会)とともに施設の運営方針等について協議する会議体を持っていることも、当施設の特徴のひとつです。
逆井 類設計室も、施設主催のイベントに関わらせて頂いており、これまで計3回、「こども建築塾」を開催しています。イベントの中で子どもたちと各フロアを巡る「施設ツアー」を行うのですが、いつも感じるのは、地域の方が日常的に使っている、にぎわいのある空間であるということ。こういった場所だからこそ、社会に開かれた学びの機会の提供ができるように思います。
野村 館内のどこにいても、子どもたちの声が聞こえてくるような、とても活気あふれる施設ですよね。これは運営の良さがあると思います。あれもダメ、これもダメと決まりやルールで縛らずに、子どもたちの自主性を尊重して、包容して見届けてあげている。その「おおらかさ」があるからこそ、子どもたちも、とてものびのびとしているように思います。
田中 ご利用者が「自分の居場所」と感じていただくことが第一です。貼り紙もなるべくしないようにしています。子どもたちが集まれば大人も集まり、施設がますます活気づく。良い循環ですし、思いやりを持って接し合える居心地のいい施設を目指しています。私たちが日頃から意識しているのは、ご利用者の皆さまと積極的にコミュニケーションをとることです。晴海地区の住民スタッフも在籍し、ご利用者とも自然に交流できる関係性ができていると思います。
類設計室では設計段階から地域の方々を巻き込むために、設計者と利用者が一体で挑む共創ワークショップ「共創スタジオ」を開催しました。どのような施設にすべきか、参加者は中央区や類設計室の設計者らと意見交換をし、今もなお運営協議会の一員として、「はるみらい」の運営に関わっています。設計から運営まで一気通貫で、地域住民が主体的に関わる成功例は、そう多くありません。この背景には、晴海地区特有の地域性があると野村は分析します。
野村 「共創スタジオ」から感じたのは、晴海という地域にかける皆さんの想いです。晴海ブランドを、世界に誇れるブランドにしたいという声もありました。まちづくりへの当事者意識が高い方が、多くいらっしゃる場所というところが大前提にあると思います。自分たちで考えて、自分たちで提案した施設だからこそ納得感があるし、施設側に「ああして、こうして」といった一方的な要求は出てこない。皆さん当事者になっていただいているので、何か問題があったとしても、他人事ではなく自分ごととして捉えていただいていると思います。
田中 この規模の施設で、ここまで「まちぐるみ」で自分ごととして取り組んでいるケースは、なかなか珍しいと思います。我々のような運営事業者からすれば、利用者様からの施設に対するご要望やご意見というのは常に出てくるもの。「はるみらい」の場合、どうすれば解決できるか、一緒に考えてくださる方々ばかりなので、それが本当に素晴らしいですね。
野村 設計段階において、じっくり時間をかけて話し合ってきたプロセスも良かったように思います。実は、はじめから順風満帆だったわけではなく、施設改修の方針に対して反対意見も多くあったんです。議論が平行線を辿っていた時期もありましたが、町会長の「今のことを考えるんじゃなくて、未来のことを考えよう」という一言から変わりました。10年後、20年後、このまちはまだまだ発展していく。未来の子どもたちが喜ぶ施設にしようと、当事者である住民の方が声を上げてくれたというのは、非常に意味のあることでした。
田中 「共創スタジオ」での議論の経緯については、我々運営側にも伝えていただいていたので、皆さんがどんな想いでこの施設をつくられたか、十分理解した上で運営にあたることができたと思います。
野村 「共創スタジオ」のなかで、印象的だった言葉があって。どんな場所にしたいか?という問いに対して、「イベントを頻繁に行って人を集めるような施設にはしたくない。」「イベントごとがあってもなくても、立ち寄りたくなる。」「ふらっと一人で行っても、帰る時は仲間と連れ立って帰っていく。」そんな施設にしたいと。そういう発想自体が、まちづくりの原点にあるように思いますね。
田中 公共施設は、目的がないと立ち寄らないことが多いと思うんです。でも「はるみらい」は、フリースペースがたくさんあって、用途も幅広い。目的がなくても、ちょっと寄ってみようかなと思ってもらえる場所になっていると思います。
逆井 サードプレイスとしてあるべき理想的な形ですね。地域にこういう場所があるということは、子どもたちにとっても大きな安心になると思います。
野村 目的がなくても行ける場所、というのはすごく豊かなことですよね。
晴海地区は、都内でも屈指の人口増加エリアのひとつ。タワーマンションの大量供給により、年々人口が増え続けています。従来からの居住者と新規流入者。住民の多様化が進むなかで、地域住民の交流拠点である「はるみらい」の果たすべき役割は大きい。最後に、「はるみらい」をきっかけに、晴海というエリアをどのように発展させていきたいか。まちづくりの観点から、三者が語り合います。
田中 晴海地区の1丁目~4丁目には古くからお住まいの住民の方が多いのに対し、「はるみらい」も位置する5丁目には新しくお住まいになる方が増えている。そういった意味で、住民の方同士がお互いにどのように交わり、晴海という地区をつくっていくかが重要になってくる。「はるみらい」は、地域に開かれた拠点として、まちづくりの一役を担えたらと思っています。
野村 晴海というまち自体は、一見新しいように思えるけれど、遡ると様々な歴史があるんです。戦後間もない頃に当時としては珍しい十階建ての高層アパートが建てられていたり、東京モーターショーなどの見本市が行われていたり。代謝が早くて、どんどん生まれ変わっている土地。晴海という名前には、いつも晴れた海を望むまちという意味が込められていますが、当施設の「はるみらい」という名前が公募によって選ばれたことも象徴的だと思います。とてもいい名前です。晴海というまちが未来に向かって生まれ変わっていく上で、この施設が起点になっていく。そんな姿が思い浮かびます。
田中 ここで出会って、つながって、関係性が続いていくということが大事だなと思います。例えば、ここで毎日のように顔を合わせていたお母さん同士が知り合いになって、サークル活動やコミュニティ形成につながっていくのが理想ですね。「はるみらい」発の出会いやつながりを増やしていく役割を、私たちは担っていると思います。
逆井 私自身は、「こども建築塾」を通して「はるみらい」との関わりをもっていますが、ここに来ると教育において私たちが大切にしているリアルさ、本物を届ける教育を、地域や社会に広げていくことの可能性を感じます。「はるみらい」の場合、地域の課題を地域の人と一緒に解決していくということを体現されている。ここで学ぶ子どもたちにとって、自分たちが主体となる体験は人生の糧になりますし、子どもたちの斬新な発想は、地域の糧にもなる。「はるみらい×こども建築塾」の取り組みも、今後も継続して続けていきたいと思っています。
野村 私たち類設計室という会社が最も大切にしていることは、社会活力デザインの創造です。施設をつくった後に、どれだけの人がその場所で活動してくれたか。どれほどの共創が生まれたか。それこそが、地域全体、社会全体の活力を生み出すことにつながっている。私たちが実現したいのは、まさにそういうこと。これからも、竣工後の建物の活用に携わって、社会活力デザインをどんどん増やしていきたいと思っています。
対談当日に開催された「こども建築塾」の様子をダイジェストでご紹介します。類設計室 教育事業部が展開する本教育コンテンツを「はるみらい」で実施するのは今回で3回目。テーマは「はるみらいが、みんなの居場所になるには?」。小・中学生計35名が参加し、活気あふれるワークショップになりました。プログラムは、一級建築士による「建築士の仕事紹介」からスタートし、「居心地の良い場所」についてグループで考えました。
居心地の良い場所の共通項が見えてきた後で、グループごとにカメラをもって施設内を探検。施設をさらに良くするアイデアを考えて、最後に発表してもらいました。キッズスペースには、子どもを見ながらお母さんたちがくつろげるようにソファを置いたら?学習スタジオには、集中できるように防音のためのグリーンを置いたら?など、様々な利用者にとって居心地がよくなるアイデアがたくさん集まり、館長からの講評では、「どのアイデアも素晴らしい。皆さんと一緒につくる施設なので、これからもぜひアイデアや想いを届けてほしい」とのコメントをいただきました。参加した子どもたちからは、つくり手の目線に立つ経験を経て、「建物を見る目が変わった」といった声や「はじめて会った人とも、同じ目的をもって話して考えることがとても楽しかった」といった声が寄せられました。
インタビュー・記事作成協力: 株式会社ハタジルシ 山田 知奈
写真撮影:坂本 泰士
事業構想、設計業務、施設運用に関することなどお気軽にお問い合わせください。
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