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「大学入試の現状と未来~大学入学者数40万人時代への提言~」 類設計室が主催する共創プロジェクト 私立大学将来構想研究会(第5回)からレポートします

私立大学将来構想研究会とは

類設計室では、教育と社会の未来を展望し、私立大学の成長と発展に資する情報交換と議論の場として「私立大学将来構想研究会」を企画・主催しています。今回はその第5回として、教育ジャーナリスト・大学入試アナリストの石原賢一氏を迎え、「大学入試の現状と未来~大学入学者数40万人時代への提言~」と題し、10月9日に大阪と東京に約70名が集まり研究会を開催しました。会の後半では、パネルセッションを実施。講演者の石原氏も交え、登壇者に、大阪成蹊学園・理事長の北本暢氏、KEC教育グループ・執行役員・事業本部長の宮部尚氏、京都橘学園・専務理事・法人事務局長・財務部長の足立好弘氏、類設計室・教育事業部・類塾プラス・進路担当の永田剛。モデレーターに大手前学園・常務理事の高本進氏につとめていただき、意見交換を行いました。

「18歳人口減少期に求められる大学の生き残り戦略」石原賢一氏

経済産業省が示す「求められる人材」像は、従来の「注意深さ」「真面目さ」から、0から1を生み出す力、グローバルな社会課題解決力、多様性を受容し協働する力へと大きく変化しています。産業構造も変化し、事務・販売職が減少する一方、情報処理・通信・開発製造技術者が増加しており、この変化に対応した人材育成が日本の高等教育における課題となっています。
18歳人口は1966年の249万人から2024年には106万人へと激減し、大学進学率は約6割で頭打ちの状態にあります。2034年までは100万人台を維持できるため、この10年間は減少率が比較的緩やかだが、2035年以降は「鶴瓶落とし」状態で急減し、多くの大学が淘汰される見込みです。現在の10年間は「神が与えてくれた10年間」であり、生き残り戦略を練る重要な期間です。
入試形態も変化し、私立大学では約6割の学生が年内入試(推薦・総合型選抜)で入学しています。また、公立大学の増加や地元志向の強まりにより、学生の地方定着傾向が顕著になっています。
15年後の大学入学者は予想44万人で、国公立と主要私立の定員27万人を除くと、残りの私立大学550校で分け合う枠はわずか17万人となります。今後、大学は研究型、高等教育型、学び型などへと分化し、選抜(偏差値)の時代からマッチングの時代へと移行します。生き残るためには、経営陣・教職員が危機感を共有し、大学の特長を明確にした「分かりやすい改革」を継続的に実施することが不可欠です。

質疑応答

質疑応答では、キャンパスの魅力について、「駅に近いといった立地は非常に大きな効果がある。大学は単なる学びの場ではなく、交流の場として機能するのではないか」との意見が出されました。石原氏からは「学生がたむろできるスペースなど、行って楽しいと思える環境を整えることが大事」との回答がなされました。続いて、偏差値の信ぴょう性について、「年内入試の増加により、予備校の偏差値データは実態と乖離している。一部の予備校の偏差値データは信頼がおけないなどの問題もある」との提起がありました。石原氏からは「上位校以外では偏差値はあまり意味をなさない。大学は偏差値に頼らず、確固たる信念と特徴を全面的に出すことが生き残りの鍵」との見解が示されました。
続いて、石原氏の講演内容を受けて、パネルセッションを実施しました。登壇者は、石原氏に加え、大阪成蹊学園 理事長の北本暢氏、KEC教育グループ執行役員 事業本部長の宮部尚氏、学校法人京都橘学園 専務理事・法人事務局長・財務部長の足立好弘氏、類設計室 教育事業部 類塾プラス 進路担当の永田剛氏。モデレーターは大手前学園 常務理事の高本進氏につとめていただきました。

「改革を止めない力、高校存続と大学発展の好循環」大阪成蹊学園・理事長の北本暢氏

改革の継続と高校(女子高等学校)の存続を常に念頭に置き、大学の学部編成を行ってきました。内部進学者の確保を重視しており、現在高校から大学へ50%~60%を確保しています。結果、成績上位者が入る好循環を生み出し、一般入試の定員設定に強気で臨めています。入試改革を断行し、一般入試比率を15%まで上げました。強みはアクセスの優位性(梅田から16分など)。学園の課題は「学生募集」「教学クオリティ」「コンプライアンス」の3点。教職員は財政に疎い傾向があり、危機感共有が不十分です。課題と危機感を共有し、教職協働による継続した改革の推進が原点です。

「現場がつくる志望動機ーー高校生・保護者・職員の三位一体戦略」KEC教育グループ・執行役員の宮部尚氏

中堅以下の大学に進学する生徒の志望決定において、オープンキャンパスが非常に大きなポイントとなっています。高校生は、説明する大学院生や就職決定者が楽しそうかを見ています。高校生に「分かる言葉」で説明することが重要です。保護者は、サポートする学生が生き生きとしているか、大学が学生を一人ひとり面倒見ているかを見ています。一方、学生は、仲間作りができそうか、たむろできる場所があるかを見ています。オープンキャンパスに行かなかった大学は、成績不振時の志望変更候補にもなりません。保護者の意識は30年前のデータで止まっています。受験期の親の介入を防ぐため、高1から高3にかけて計9回、保護者向け説明会を実施しています。塾の生徒募集は口コミが重要。全社員が自身の部署の特長を具体的に言えるようにすることで、「口コミ伝染病」を起こす必要がある。成約率(80%目標)を毎日管理し、平均以下の職員に平均以上の社員の動画を共有し、改善を促しています。民間企業として毎年が勝負であるため、絶え間ない改善努力が必要です。

「フェアレスな組織がつくる新しい大学像」京都橘学園・専務理事・事務局長・財務部長の足立好弘氏

改革は目的ではなく、「どういう教育をするか」という結果として生まれた手段です。組織の目標は「恐れのない組織」(フェアレスな組織)の構築であり、自由に意見が言える環境を整備しています。2025年にデジタルメディア学部など、新たな学部の新設・展開を進めます。女子大の厳しさの原因は、ブランド価値、規模、新規学問分野への投資力(財政力)、そしてトップマネジメントとガバナンスの問題にあります。ガバナンス改革が必須であるが、学校法人の制度上、不作為の理事の排除などが難しい。受験生の大学選びは歪んでいます。受験生は本命と滑り止めのパターンで選び、偏差値や自宅からの近さで選定しています。大学でのアクティブラーニングはコミュニケーション能力を高める効果があるが、世間は重視しません。受験産業が作った語呂合わせなどで大学を選ぶのは間違った姿です。教職員は、そうした価値観を洗い流すことが大学教育であるという意識を持つべきです。

「進路多様化時代の教育ーーマッチングと個性重視への転換」類設計室・教育事業部・類塾プラス・進路担当の永田剛

少子化の圧力が厳しく、入試は多様化・前倒し(総合型選抜など)が進んでいます。受験の単願化が進み、大学入試では1人1〜2校の出願が当たり前になっています。高校入試の現場も多様化しており、通信制高校の割合や、高校内でのサポートコースが増加しています。従来の「普通の進学」コースは9割を切っています。もはや1本のレールで進む進路ではない時代になっています。大学側がマッチングのために特色を出すことが求められます。学習塾側も偏差値という物差しだけでなく、子どもの可能性や個性を引き出す教育が重要になります。教育と異分野(こども自然体験、こども建築塾、こども企業塾など)に関わりながら、教育の中身を考えていく必要があります。

石原氏より総括コメント

最後に石原氏より総括のコメントをいただきました。
現在の教育システムは、人口が多く右肩上がりだった時代のシステムが残っています。少子化は今後50年間続く決定事項であり、移民でカバーするのは不可能です。我々は少子化を容認しながら、いかに子どもたちの将来を確保するか考えるべきです。今後は戦前の複線型の学校制度のような「先祖返り」が進みます。高等教育機関は分化し、社会に出てからのリカレント教育も増えるでしょう。私立大学は経営規模が小さいと生き残れません。一般企業の資本主義の論理(合併や統合)が教育現場にも波及せざるを得ません。選抜からマッチングへの転換、大学の明確な個性の打ち出しが、2040年代を生き残る鍵となります。

 

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