本事業は、小学校・中学校を統合し、複数の公共施設とともに複合化整備しました。敷地は大阪府豊中市南部の庄内地域にあります。まちの歴史は弥生時代から二千年に及びます。戦後復興期に人口が急増したものの、下町の気質が残り、子ども食堂や子どもたちの見守り活動が盛んなのも特長です。住民同士のつながりが残り、地域のお祭りには多くの住民が参加します。
このような地域特性を踏まえ、豊中市が構想したのは、地域ぐるみで子どもを育てる活動を中心に、地域活力を高める地域拠点施設です。学校は統廃合を機に、目指す子ども像として「自ら考え、行動し、仲間とともに豊かな社会をつくる子ども」が掲げられ、新しい時代の教育への期待が高まっていました。
地域の活力の源は子どもたちです。子どもたちの元気な声が聞こえ、その周りにはお年寄りや近所のおばちゃんたちがいて子どもたちを見守っている。そんな人と人との温かい繋がりが住みやすい街、住みたくなる街になります。人口が減少し寂しくなってきたとはいえ、豊中市南部地域には、そんな昭和の名残を感じる光景が残っています。本事業の目的である豊中市南部地域の活力あるまちづくりを推進するにあたっては、今もこの地域に残る人と人との繋がりを活かし発展させること。子どもから大人まで多様な関係の中で子どもたちを育むことを主眼にプロジェクトを進めました。
私たちが参画する前は、学校(小中一貫校)と公共施設(コラボセンター)は別々につくる計画で、別々に議論されていました。私たちは、設計者選定プロポーザルにおいて、地域の期待は「学校と地域施設の一体化」であると捉えて提案し、受け入れられました。
設計が始まると、学校の先生方100名、地域住民の方々30名とのワークショップが待ち受けていました。施設を使う方々から受け入れていただけるか。まずは地域の課題や子どもを大切にする文化を共有し、学校の在り方を議論しました。市の方から「地域に住む『みんな』に共通する課題や可能性を考えていきましょう」というリードもあり、個々人の価値観や要望に偏ることなく、子どもたちの新しい居場所・学び場への想いが重ねられていきました。
施設の一体化を左右するのが「あいさつロード」。敷地の中央を通り、かつての小学校と中学校の間にあった生活道路です。これを学校と地域施設の間に通す提案を行いました。それはみなさんが慣れ親しんだ生活動線を約50m動かすものでしたが、「あいさつロードを中心に、学校と地域施設の繋がりを強めよう」という多くの賛同の声が上がり、今回の配置案が実現しました。
あいさつロードには、学校(さくら学園)と地域施設(コラボセンター)のエントランスを対面させ、2階はデッキで両建物を繋ぎました。さらに食堂や図書館など、世代交流が期待できる両建物の機能をあいさつロードに面して配置することで、多様な交流が生まれるよう工夫しています。
また、あいさつロードは積極的に植栽やベンチ等を設け、周辺の緑道や公園と繋がった広域の緑のネットワークをつくり、あいさつロードで生まれた人の賑わいと緑の潤いが地域全体に波及していく計画としています。
学校は、昇降口に面して吹抜け空間と大階段を設けました。子どもたちの作品展示や発表会にも使えるようにし、意欲・活気が学校全体に広がっていきます。あいさつロードからも見えるので、保護者や地域の方々も子どもたちの成長を感じられる場となることを願っています。
地域施設(コラボセンター)の1階のホールは、児童生徒の放課後の居場所となるとともに、地域団体の活動(古本・カフェ)、子育て支援機能を設けています。大人たちが子どもを温かく見守り、安心できる居場所となるように、見通しの良い木質空間としています。放課後には、児童生徒たちが勉強する姿も見られます。カフェは地域NPOが運営し、子どもたちの様子を気にかけ、声をかけてくれます。
2023年の開設から間もなく「庄内さくら学園応援団」が結成されました。子どもたちの日々の授業や体験学習などに地域の方々が関わるための有志による組織です。地域ぐるみで子どもたちにかかわり、生きる力を育む。そのなかで大人もお年寄りも活き活きとします。子どもたちも、地域に見守られ、安心して活き活きと学ぶ姿を見せてくれています。そこに地域の未来が見えます。
学校と地域の想いや共通課題を、ワークショップで丁寧に聞き取り共有することで、どこの学校や地域であっても「新しい時代の教育」を築き上げることができます。学校と市民と行政の協働により実現した活気ある姿に、多くの教育関係者や行政からの見学が相次いでいます。「全国に誇れる、まちづくりの先進モデル」の実現に向けて日々進化しています。
きだ・なるき
大阪設計室 統括ディレクター
1973 年京都府生まれ。1996 年近畿大学理工学部建築学科卒業後、同年類設計室入社。
1973 年京都府生まれ。1996 年近畿大学理工学部建築学科卒業後、同年類設計室入社。
おぐま こうへい
1986年福島県生まれ。2011年類設計室入社、現在に至る。
1986年福島県生まれ。2011年類設計室入社、現在に至る。
たみや まさあき
1968年兵庫県生まれ。’92年類設計室入社、現在に至る。
1968年兵庫県生まれ。’92年類設計室入社、現在に至る。
事業構想、設計業務、施設運用に関することなどお気軽にお問い合わせください。
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