>レポート(1)のつづき
前田力
パネラー
ナイス株式会社理事
日本WOOD.ALC協会理事
宮越久志
パネラー
株式会社中東
専務取締役
多田奨
パネラー
株式会社類設計室
監理部課⻑
杉本洋文
コメンテーター
株式会社計画・環境建築
代表取締役会⻑
PANEL DISCUSSION ②
2022年2⽉、神奈川県⾜柄上郡松⽥町に、松⽥町⽴松⽥⼩学校の新校舎が完成した。⽂部科学省が推奨する「⽊の学校づくり先導事業」の⽀援を受けた、全国3例⽬となる⽊造3階建て・1時間準耐⽕構造の⼩学校で、神奈川県では初の⼤規模⽊造校舎でもある。約45年ぶりの建替えという町の悲願を背負い、地域の核となって町の成⻑を牽引する学校として、「松⽥と共に育つ 新しい学びの樹」をコンセプトに計画が進められた。
本計画が⽬指したのは、これから全国に広がっていく“⽊の学校づくり”のモデルとなること。そのため構造は最も標準的な在来軸組⼯法を採⽤し、設計は尺貫・矩形モジュールで統⼀。学校に求められる⼤きな空間を成⽴させるために、集成材と製材の最適な組み合わせを検証し、費⽤対効果を含めた現実解を追求していった。
多田 このプロジェクトに関わるとき、単にひとつの学校をつくるだけではなく、⽊造学校を全国に広めるチャンスだと捉えました。着⼿当時、設計事例としては全国で3例⽬だと⾔われていました。先⼈はいる。でも、これから続く⼈たちが、僕らと同じ試⾏錯誤を繰り返さなくていいように、真似できる型をつくりたい。そんな意志で進めてきました。普及を本気で考えるなら、「どこでも、誰でもつくれる」ことが重要です。その鍵が、標準化設計でした。松⽥⼩学校では、①三尺(910mm)モジュールを採⽤すること。②接合⾦物は既製品を使うこと。③在来軸組⼯法(住宅と同じ⼯法)を⽤いることの3つの⽅針を徹底しました。
宮越 1メーターピッチがいいのか、それとも910ピッチがいいのか。設計の段階でも⼀度ご相談いただきましたが、極端に⾔うと集成材だけならどちらでもつくることはできました。ただ⼆次部材や合板などを考えると、尺モジュールは合理的だったと思います。製材品はメーターが多いけれど、それを加⼯しても無駄が出にくい。今回は納品スピードもタイトだったので、短い期間で必要量を集めて加⼯・納材するという現実⾯でも採⽤してよかったと思います。
多田 接合⾦物も全国どこでも⼿に⼊る既製品⾦物を徹底して使う。そうすれば施⼯側のハードルも下がりますよね。⼯法も、いわゆる⼀般住宅と同じ在来軸組⼯法にしたことで全国の⼤⼯さんが、住宅の延⻑線上で考えて施⼯できる設計に寄せたかったんです。そしてもうひとつ、標準化を考える上で悩ましいのが、階⾼です。たとえば都市部の学校で中央空調を⼊れたいとなったときに、天井内に⼤きなダクトを⼊れないといけませんよね。その分の天井⾼を確保していくとなると、階⾼が4mを超える可能性がある。その場合、製材ではつくれないのではという不安もあります。
宮越 国産材の製材は4mまでは⽐較的安い。ただ、4mを超えると価格が⼀気に上がる印象があります。⽶松(ベイマツ)なら6mもありますが、トータルコストとしては⾼く感じます。可能なら4m以内に納める設計が望ましいですね。
前田 在来軸組⼯法で設計する前提ならその通りですね。あとは構造的に持つかどうか。材の縦横⽐のバランスを考慮すると、感覚としては天井⾼さ3.3mあたりが限界じゃないかと思います。
中⼤規模⽊造で避けて通れない課題が、⾬への備え。松⽥⼩学校では建て⽅が約5ヶ⽉間に及び、どれだけ対策しても⾬にさらされる時間が⽣まれる。実際、床や壁をブルーシートやビニールで養⽣していたにもかかわらず、⾬⽔の侵⼊と乾ききらない状態が重なり、ガラスをはめたタイミングでカビが発⽣。引き渡し前に張り替える判断に⾄った。⾬対策は「現場で何とかする話」ではなく、仮設資材・⼯程⼿順・⼯区の切り⽅まで含めた“設計の仕事”として捉え直す必要がある。議論は、普及を⾒据えた実装論へと進んでいった。
多田 ⾬対策は、中⼤規模⽊造においては宿命でもありますよね。施⼯者の皆さんに申し訳なかったと思っているのは、ブルーシートのような仮設資材の必要性を設計側が⾒込めなかったことです。結果的に建設段階に現場で対応してもらいました。普及を考えるなら、仮設資材を最初から計画に⼊れないと、施⼯者の負担になって「⽊造はやりたくない」となってしまう。⾬対策をどう考えればいいでしょうか。
前田 中⼤規模⽊造と⾔っても、⽊造建築であることに変わりはありません。基本は住宅の⼯程が参考になります。住宅なら建て⽅は2〜3⽇で終わって、すぐに屋根⼯事まで⾏って⾬仕舞いをつくる。床も、壁がない状態では防⽔材のシートを敷いて⾬をしのぐ。⾬仕舞いが取れてから壁合板を張り、透湿防⽔シートで覆って、開⼝部も塞いでおく。サッシを⼊れるときに、必要なところだけシートを切って納めるという⼿順です。ただ、5ヶ⽉ずっと建て⽅を続ける規模だと、その⼿順をそのまま適⽤するのは難しい。だから例えば、⼀気に建てない。構造を⼯区で分けて、⾬仕舞いを確保しながら進める。そういう組み⽴て⽅の⼯夫が必要になると思います。
宮越 補⾜すると、柱などの構造材(集成材を含む)は、⼯場で⽊材の保護塗装をしておくことがあります。鉄⾻で⾔う錆⽌めのような役割で、数ヶ⽉⾬にさらされる可能性を⾒込むためです。ただ、いちばん問題になりやすいのは合板ですね。
前田 まさにそこです。⾬⽔の侵⼊は開⼝部や⾜場からだけじゃなく、上からも⼊る。合板は構造材にぴったり密着しているわけではないので、柱にかかった⽔が下に降りる途中で梁を伝って横にも⾛るし、どんどん⼊り込む。だから、せめて合板に⽔密・防⽔をかける意味で、さっき⾔ったシートを⼯程の早い段階で効かせていく。壁合板を張るのは、防⽔がちゃんと取れてからが原則だと思います。
杉本 総合建設会社の現場監督さんでも、こういう話を知らないことが多いんですよ。⼤きい会社ほど⽊造経験が少ない。だから養⽣や⼯事計画が担当者の経験に左右されやすい。住宅で早い段階に防⽔シートまで持っていくのは、「濡らさない」ための合理がある。⼤型でもRCと同じ感覚で平面的に工事計画を立てるのではなく、工区を分け、屋根までつくり工事して早く雨仕舞いを行うようにして、順次工程を進める方が良い。そのために、設計者側も勉強して、⼯期の組み⽅⾃体を⼯夫する必要があると思います。
多田 今回はスケジュール的にどうしても、建て⽅が梅⾬の時期にかかってしまった。そこも反省点です。別の⽊造案件で筑波胃腸病院 増築棟を担当しましたが、こちらは12⽉から建て⽅を始めて、⾬は1回しか降られなかったと聞きました。冬場に建て⽅を持っていくのも、⾬に当てない⽅法としては有効かもしれませんね。
中⼤規模⽊造を全国に広めていくには、産地指定・納期・調達⼿順、そして担い⼿不⾜という現実と向き合わなければならない。議論は、⽊材調達を「設計後の調整」ではなく「事前に仕掛ける仕組み」へ、そして「現場任せの施⼯」から「⼯業化・⼈材育成」へと広がっていった。
多田 松⽥⼩学校で使⽤した⽊材量を整理します。中東様から約765⽴⽶、合わせておおむね1,000⽴⽶。うち3分の2が国産材で、残り3分の1が外国産材です。さらに国産材のうち10.3⽴⽶は地場産材、松⽥町の町産材でした。この地場産材は学校林、つまり裏⼭の「松⽥⼭」に⽣えているスギ・ヒノキです。40年ほど前の卒業⽣が植林してくれた⽊がちょうど伐採期に来ていて、「ぜひ使ってほしい」と⾔われて伐採し、製材しました。ただ現実の論点として、調達・産地・コストは押さえておかないといけません。松⽥⼩学校で1,000⽴⽶。今後、もう少し⼤きい学校だと1,500⽴⽶になる案件もあります。設計が終わって、総合建設会社が決まって、「さあ材料を発注しよう」となってから、この物量が本当に間に合うのか。さらに姉妹都市材、都内なら多摩産材など、産地指定がある場合、何に注意して動けばいいのか。そこをお聞きしたいです。
前田 まず、産地指定がなければ、1,000⽴⽶や1,500⽴⽶は、そんなに課題にならない規模だと思います。問題は産地指定があるときで、「どの産地か」によります。⼤規模な製材⼯場がある産地なら、年間8万⽴⽶規模で製材しているところもありますから、指定があっても成⽴しやすい。⼀⽅で、東京の多摩産材や神奈川のように、林産県ではない地域だと状況が変わります。製材⼯場はあっても⼤規模ではない。
たとえば神奈川のJAS製材⼯場でも、⽉に6,000⽴⽶程度、年間7万⽴⽶規模。そこに「1,500⽴⽶を出して」と⾔われたら、確かに無理が出ます。場所による、ということですね。
宮越 同じ話の延⻑ですが、集成材にする場合は、製品の約3倍の丸太が必要になります。1,000⽴⽶なら3,000⽴⽶、1,500⽴⽶なら4,500⽴⽶前後の丸太が必要。これを伐採して、製材して、乾燥して、契約した納期に合わせるために、設計完了後に⼀気に動かすやり⽅では、多分不可能です。だから、⾏政でも⺠間でも、発注者側で事前に⽊材調達の⼿配が必要になります。ただ、設計者が決まっていない1〜2年前の段階から動かないといけないケースもある。そこで最近は「⽊材コーディネーター」の役割が重要になっています。まず調達可能性をコーディネートして、納期内に集められる⽬途が⽴つなら事前発注して⼭側に⼿配する。そういう段取りを取らないと、この量は集まりません。
杉本 実例でいうと、⼩⽥原市は⼩学校の⽊質化を毎年1校ずつ進めているんですが、使う材料を前年度に発注して市が準備する仕組みが必要になる。学校は夏休みに工事を実施したい、でも木の伐採は冬期なので、前年度に手配しておかないと間に合わなくなります。そこで市は議会に対して「小田原産木材調達基金」の予算1500万円を創設して、前年度に木材を購入し、ストックヤードを確保して、次年度で売却するようにしました。1回きりの補助金とは異なる循環型の予算の活用によってスムーズに市産材活用を推進しています。とても良い仕組みだと思います。
⽊材コーディネーターは全国で100⼈か200⼈くらいと言われています。熊本県では設計者が決まるとすぐに木材コーディネーターを派遣してくれる制度があります。そして「県産材の流通」「加工工場」「木材の品質・規格」などの情報を整理して教えてくれます。プロポーザル等で決まった設計者は県内の木材に関連する各種の情報を効率よく受け取ることができます。こうした仕組みがないと県産材の利用が難しくなると思います。
杉本 もう⼀つ深刻なのが、⼤⼯さんです。⼤型⽊造をやれる職⼈がいないと、そもそも建てられない。松⽥⼩学校では、建て⽅のピークで1⽇に80〜100⼈規模の⼤⼯が必要だった。地元だけでは⾜りないから、広域から集めて成⽴させた。神奈川家の某市でも「発注しようとしても⼤⼯・職⼈の確保が難しくて建設会社が請けたがらない」という話が出ています。森を育てる⼈だけじゃなく、⼤⼯も育てないと、⽊造は続きません。
宮越 担い⼿不⾜への打ち⼿として、現場作業を減らす⽅向も必要です。⼯場でパネル化できるものは⼯場でつくる。建て⽅と並⾏して短期間で進められるようにする。⼯場のほうが⼈が集まりやすい⾯もありますし、現場組⽴てへの依存を下げないと、中⼤規模⽊造は広がりません。
杉本 ユニット化の考え⽅も同じです。⼯場で内装までつくって運んで、現場は基礎+据え付けに近づける。ヨーロッパのホテル建設はもうそうなっています。⼯場は環境が整っていて、⼥性も働きやすい。もう「真夏の現場で全部つくる」前提を変えていかないと間に合わない。総合建設会社も含めて、ぜひ開発を進めてほしいですね。
パネルディスカッションの最後のテーマはコストについて。いざ⽊造で建てるとなると、コストの問題がつきまとう。⽇本の⽊材市場価格の動向や、国産材と外国散財の価格差など、コスト⾯における意⾒交換が⾏われた。
前田 国産材と外国産材の価格差は、「縮まっている」と⾔ったほうがいいかもしれません。今後の⾒通し次第ではありますが、円があまりにも弱くなってしまった。⼀番円⾼だった時期と⽐べると、外国産材は実質的に倍になっている感覚があります。さらに北⽶も、⽇本市場を以前ほど⾒なくなっている状況がある。ウッドショックもありましたが、それ以上に「買う⼒が落ちてきている」という問題もある。そういう意味では良い話ではないけれど、結果として価格差は縮まっていく可能性が⾼い、という⾒⽴てです。
杉本 松⽥⼩学校は、完成する頃にウッドショックに直撃しました。建具に必要な“4×8板(しはちばん)”が⼿に⼊らない。3×6板(さぶろくばん)しかない。だから仕⽅なく、⽬地をデザインして、3×6版でも“框扉”みたいに⾒えるように設計した。結果として良かったとは思いますが、調達ひとつで「本来は⼀枚でできるものができない」みたいなことが起きる。国際価格は揺れるもの、その前提で注意しながら進めないといけないと思います。
宮越 住宅で多く使う欧州⾚松が、⾮常に安く⼊ってくると、その価格が構造材の“ベース”になってしまう。本当は国産材をもっと⾼く売りたいのに、相場に合わせざるを得ない。⾼いと売れない。⽶松(ベイマツ)など他の外材も同じで、結局、国内価格は外材相場の影響を強く受けてしまう。欧州⾚松の価格は、⽇本の⽊材市場価格に相当影響していると思います。
森本 営業マンとして⽊材販売も経験してきましたが、相場が市場に与える影響は確かに⼤きい。流通に関わる⼈はその前提を知った上で価格を決めている。ただ相場が動いたからといって、⼭で働く⼈の賃⾦が上下するわけではありません。むしろこの業界は⼈が集まらず、⼭に関わる⼈はどんどん減っているのが現状です。
だからこそ、価格の議論は「市場の上下」だけではなく、“⼭側に⼈が残る条件”まで含めて、
もっと深めていきたいですね。
パネルディスカッション終了後の質疑応答では、中規模⽊造学校におけるCLT、LVLの活⽤や、⾬対策の接着剤の⼯夫についてなど、実務に踏み込んだ内容の質問が相次ぎました。また、イベント後のアンケートでは、参加者から「⽊を切る段階からデザインは始まっているというところが興味深かった」「意匠的なこと以外の実務的な話を聞けて⼤変勉強になった」「仕事柄コストから考えていたが、⼭を守るという観点で、サプライチェーン全体で考える必要があると感じた」などの意⾒が多数寄せられ、参加者の皆さまの「森を育み、活かす」ことへの興味・関⼼の⾼さが伺えました。
類設計室では今後も共創シンポジウムやイベントでの交流を通じて、「これからの⽊造建築」のあり⽅について、皆さまと共に探求を続けてまいります。
事業構想、設計業務、施設運用に関することなどお気軽にお問い合わせください。
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